おとうと #15
叶はコーヒーをひと口飲むと、椅子の背もたれに上半身を預けながら続けた。
「オマエが漫画家の夢を抱えながら、親父さんに押しつけられた柔道を辞めないのは、柔道で結果を出した時だけ親父さんが褒めてくれるからだろ? 男ってのは、何だかんだ言っても父親に一番認めて欲しいもんなんだよ。オレもガキの頃いじめられてて、初めていじめた奴に
叶の回想に、忍は感心した様な顔で深く頷く。
「そ、そうです……父さんは、僕が学校の勉強で良い成績を出しても、どんなに絵を上手く描いても、褒めるどころか興味も持ってくれません……でも、僕が柔道の試合で勝ったり、昇級したりすると、大きな手で僕の頭を
俯いて話す忍に、叶は身を乗り出して言った。
「オマエさ、気持ちは判らんでもないけど、いつまでも両方続けてられないだろ? 現に、身体にはもう異常が出ちまってんだから。それに、『
「でも……」
「でももクソもあるか。親兄弟の事より、まずは自分を第一に考えろよ」
「はぁ……」
煮え切らない態度の忍に
「とにかく、家に帰るぞ。これ以上、姉さんやお袋さんを心配させんな」
「そ、それは! あの……」
「何だよもう! ハッキリしねぇなオマエは!?」
周囲の目も
「もしかして、帰りたくない理由が別にあるのか?」
その刹那、忍の表情が明らかに強張った。図星を突いた確信を得た叶が、更に訊く。
「何なんだ、その理由ってのは? 柔道部に関係してんのか?」
暫くの沈黙を経て、叶が口を開いた。
「忍、ちょっとスマホ見せてみろ」
「えっ?」
忍が、あからさまに
「そ、それは……」
「いいか。これはオマエの為でもあるし、姉さん達の為でもあるんだ。問題があるんなら、解決しなきゃ先に進めないだろ? オレが力になるから、見せてみろ」
忍は不安げな表情で視線を彷徨わせていたが、やがて叶の説得に応じてスマートフォンを取り出し、テーブルに置いた。叶はひとつ頷いてスマートフォンを手に取り、画面にいくつも表示されているアプリのアイコンの中から、メッセージアプリを選んでタッチした。
《続く》
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