おとうと #10
翌朝、
出入口をくぐった叶に向かって、気色悪い声で
「いらっしゃ~い」
思わず
「ゲッ! 何だオマエ!?」
のけ反る叶に、桃子が駆け寄った。
「ねぇともち~ん、あのハイエナさんったら、お店開ける前から来てたのよ~! まぁ、お掃除手伝ってもらっちゃったんだけど」
「ギャラは払わなくていいから」
叶は桃子に耳打ちすると、不快感丸出しの顔で西条に歩み寄った。
「随分早起きだな、それとも徹夜明けか?」
西条は笑顔のまま叶に席を譲ると、自分は左隣にずれた。
「こう見えても健全な生活してんだぜ! 健康優良不良少年だからな己は」
「不良中年の間違いだろ」
叶のツッコミをスルーして、西条が質問した。
「で、仕事は進んでるかい?」
今度は叶がスルーした。
「桃ちゃん、サンドイッチ盛り合わせ」
「は~い」
甲高い声で返事した桃子を見て、西条が言った。
「あ、それ己も」
「かしこまりました~。今日はキチンとお代払ってくださいね~」
営業スマイルで毒づく桃子に手を振り、西条は更に叶に訊く。
「あの女子高生とバニー服部との関係、知ってるんでしょ~?」
叶はまたしてもスルーし、大悟が差し出した水の入ったグラスを受け取ってひと口飲んだ。隣で西条も水をもらう。ひと口でグラスの半分近くの水を腹に流し込んだ西条が、軽くゲップをして呟いた。
「服部美緒」
途端に、叶が表情を強張らせて西条を見た。西条は叶の強い視線を横顔で受け止めて続けた。
「おいおい、こちとらトップ屋だぜ、
「そんな能力あるんなら、オレにくっつく
必要無いだろ」
「何言ってんの、フリーランスの厳しさはあんたもよく判ってんだろう? だからさ、ここは仲良くやろうぜって」
「断る」
「チェッ」
やや
「お待たせ~」
桃子が営業スマイルで告げると、叶は微笑と共に「ありがとう」と返し、西条は「お! これ
「美緒ちゃんには二歳下の弟がいるんだってねぇ~、たださぁ、その弟って柔道やってるらしいんだよなぁ、あのバニー服部の絵柄とは全然
「ちょっと黙ってろ」
たまらず叶が横目で西条を睨みつけて注意した。だが西条は一向に怯まない。
「その弟、最近学校に来てないとか……気になるなぁ~」
「いい加減にしろ! メシがまずくなるだろうが!」
今度ばかりはさすがの西条も
それから暫く、店内は叶と西条がサンドイッチを
数分後、サンドイッチとコーヒーを胃に収めた叶が立ち上がり、カウンターに千円札を一枚置いて言った。
「ごちそうさん。ここに置くよ」
「あ、ありがとうともちん」
カウンターから出て来た桃子に微笑を返すと、叶はまだサンドイッチを頬張っている西条を見下ろして冷たい口調で告げた。
「昨日も言ったが、依頼人に何かしたら承知せんからな。それにオレはオマエみたいなハイエナと組む気は無い」
「ヒントはもらったぜ、探偵さんよ」
《続く》
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