おとうと #7
それから、叶は忍の顔写真と、住所と連絡先をメールで送る様に美緒に頼んだ。毎度の如く、金の事は一切言わずに話を終わらせた。
「では、よろしくお願いします」
改めて頭を下げてソファから腰を上げた美緒に、叶はふと思いついた疑問を投げかけた。
「そう言えば、玲奈とオレの事は人づてに聞いたらしいけど、どういう
「あぁ、私、以前生徒会の役員をやってて、同じ時期に役員だった後輩が玲奈ちゃんと同じクラスで、その子から
叶は納得した様に二、三度頷いてソファから立ち上がった。
「じゃ、気をつけて」
「はい、失礼します」
美緒は
「本当に、似てますね。玲奈ちゃんに」
二客のカップを片手で器用に持ち、空いた手でノートパソコンを抱えた叶が事務所を出て階段を下り、『喫茶 カメリア』に入った。
「あ、いらっしゃ~いともちん。はいどうぞ~」
出迎えた桃子が、叶の定位置である奥のカウンター席に
「カレーライス」
「あらともちん、さっきの子の依頼受けたの? まぁ~またタダ働きの匂いがプンプンするわね~」
桃子の
不快感を
「初めまして、探偵さん」
「誰だオマエ?」
「オットー、これは失礼」
おどけた調子で言うと、男は上着の内ポケットから名刺を一枚抜き出して示した。叶は名刺を素早く取り上げ、自分の正面にかざして見た。『フリーライター
「ブンヤが何の用だ?」
叶が名刺を自分の上着のポケットにしまいつつ訊くと、西条は笑顔のまま言い返した。
「ブンヤってのは、ちょっと違うなぁ。トップ屋って言ってくんないと」
「トップ屋って、なぁに?」
カレーライスを運んで来た桃子が
「要は特ダネ狙いのハイエナだよ」
「へぇ~、ハイエナ」
慌てて否定しようとする西条を
「ま、いっか。当たらずも遠からずだ」
「だから、何か用か?」
叶はノートパソコンを閉じてカレーにスプーンを刺しながら、苛立ち混じりに尋ねた。
西条は居住まいを正すと、叶に顔を近づけて訊いた。
「あんたさ、バニー服部って知ってる?」
「何だそりゃ? 新手のお笑い芸人か?」
叶がとぼけると、西条は笑顔を貼り付かせたまま、目つきだけを鋭くして更に訊いた。
「さっきあんたの事務所から出て来た女子高生、あれバニー服部の関係者だろ?」
「知らんな」
尚もとぼける叶に、西条は声をひそめて話し始めた。
「三ヶ月前に発行された『少女パステル増刊号』に載った『最も危険なふたり』っていう、新人賞で入選を獲った漫画の作者がバニー服部。何でもそいつは編集者も直接会った事が無い
「少女漫画読むのか? その顔で」
叶がカレーを咀嚼しながら小馬鹿にした様に言うと、西条は少し表情を険しくした。
「別に
「さすがハイエナ」
叶の嫌味に、西条は不満を露わにした。
「うるせぇな、まぁともかく、己はバニー服部の手掛かりを得る為に出版社を張ってた。すると、何度かさっきの子が出入りするのを見た訳よ。持ち込みなら原稿が入った封筒なり鞄なり持ってるもんだが、あの子は基本手ぶらだった。その
《続く》
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