匿う男 #17
映し出されたのは、仁藤が今までに撮り溜めたと思われる、様々なスキャンダルの瞬間を捉えた写真データの数々だった。有名芸能人の
「仁藤は、これらをネタに……」
古沢が独りごち、傍らの玲奈を気にして言葉を切った。玲奈は、一切写真を見ずに明後日の方向を見ている。
「とにかく、これは二課に回す」
石橋に促されて、叶は画像を切ってメモリーカードを抜き、石橋に渡して立ち上がった。
「さて、こっからは警察がお守りをしてくれそうだから、オレの仕事は終わりだな」
「えっ?」
驚いて見上げる玲奈に微笑みかけて、叶は出入口へ向かった。そこへ、古沢が立ち上がって声をかけた。
「待ってください!」
「何だよ?
叶が肩越しに振り返って訊き返すと、古沢は真剣な表情で改めて問いかけた。
「これは個人的な疑問なんですが、貴方は何故、我々にその存在を隠して、尚且つあんなに痛めつけられてまで玲奈さんを守ったんですか? 依頼人に対しての義務ですか? それとも、探偵としてのプライドですか?」
「そんな大したもんじゃねぇよ」
苦笑しつつ答えた叶が、不安げな視線を送って来る玲奈を見て言葉を継いだ。
「妹に似てた。それだけだ」
その言葉に、玲奈が目を真ん丸にした。叶はもう一度玲奈に微笑んで、会議室を後にした。直後に玲奈が弾かれた様に立ち上がり、叶の後を追った。
「探偵さん!」
扉を開けるなり叫んだ玲奈を、叶が驚いた様子で振り返った。玲奈は叶の側へ駆け寄り、目を泳がせながら言った。
「あ、あの、ウチ、その……あ、ありがとう」
叶は玲奈に向き直り、少し身体を屈めて諭す様に話し始めた。
「なぁ、オマエの親父さんは、確かにあんまり人に褒められるもんじゃなさそうな事をやってたみたいだけど、それはきっと、オマエの為ってのもあったと思うぞ」
「え……」
戸惑った顔で見返す玲奈に、叶は笑顔で続けた。
「そりゃそうだろ、カミさんと別れて、男手ひとつでオマエを育てるって決意したからこそ、ヤバい橋を渡る覚悟もできた筈だぜ? まぁ、やり過ぎちゃったのかも知れないけどな」
「探偵さん……」
「プレゼントの中にメモリーカードを隠したのだって、どっかでオマエと繋がってたい、って気持ちでやったんじゃないか?」
「パパ……」
俯いて涙ぐむ玲奈の頭を撫でて、叶は身体を起こした。
「じゃあな。たった一日だけど、楽しかったぜ。元気でな」
別れを告げて立ち去る叶に、玲奈が顔を上げて尋ねた。
「あ、お、お金は?」
問いに答える代わりに、叶は右手を開いて大きく振って見せた。
翌朝、叶がカメリアで朝食のサンドイッチ盛り合わせを摂っていると、ジャケットの内ポケットでスマートフォンが震動した。
「誰だよ朝っぱらから」
「何か用か?」
『あぁ、叶君。朝早くにすまん』
「いいから用件を言え」
『実は、昨日逮捕したあの二人が、
叶の表情が強張った。石橋が更に続ける。
『二人とも舌を噛み切ってね……
「
『そうだな。それに――』
石橋が一旦言葉を切った。訝しんだ叶が先を促す。
「それに?」
『ひとまず玲奈さんに危険が及ぶ心配が無くなった事だけは、喜ばしいね』
「……そうだな」
微笑と共に同意して、叶は電話を切った。そこへ、桃子がコーヒーを持って来た。
「あら? どうしたのともちん? 何か嬉しそうねぇ」
「何でもないよ」
桃子の疑問をあっさりかわして、叶はコーヒーを受け取ってひと口啜った。
《続く》
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