匿う男 #8
「待ってろよ」
シートベルトを外しながら叶が言うが、玲奈は興味無さげに頷くのみで、視線はスマートフォンに釘付けだ。肩をすくめつつ運転席を出た叶は、ドアをロックして
「あ、やばい」
そっと
「あ! 叶!」
社屋の方から、口髭をたくわえたパーマ頭の男が両目をひん剥いて叶に向かって寄って来た。そのジャケットの左襟には石橋と同じ『S1S』の赤バッジが光る。警視庁捜査一課で石橋とコンビを組んでいる
「てめぇこんな所で何やってんだぁ? まぁどうせくだらねぇ浮気調査か何かだろ?」
「松木さん、お知り合いですか?」
「あぁ、こいつは叶って言う、しょうもないヘボ探偵ですよ」
「何言ってやがる、暴力
叶が横を向いて悪態を吐くと、すかさず松木が反応した。
「何か言ったか?」
「何でもねぇよ、それよりアンタはこんな所で何やってんだよ? 石橋さんと一緒じゃねぇのか?」
叶がそれとなくカマをかけると、松木は口角を吊り上げて胸を反らせた。
「へっ、今おれは捜査本部に居るんだ。どうだ参ったか」
「ほぉ、それで使いっ走りの聞き込みか」
「何だとコラ!」
「松木さん!」
相方の刑事が制止するが、松木は鼻息を荒くして叶を睨みつける。叶も負けじと見返して更にカマをかけた。
「捜査本部ってのはアレか、ニュースになってた殺しか?」
「おぉ、おまえもニュース見るのか、そうだよ、夕べのカメラマン殺しだよ」
「松木さん! 捜査情報を外部に漏らしちゃまずいですよ!」
相方にたしなめられて、松木は少し落ち着きを取り戻した。
「あぁそうだった、こっちはクソ忙しくって探偵なんぞに関わってる
勝ち誇った表情で立ち去ろうとする松木に向かって、叶が毒づく。
「捜査本部に帰って報告すんのか? 大した収穫はありませんでしたって」
途端に、松木が顔を真っ赤にして叶の胸倉を掴んだ。相方の制止も無視してまくし立てる。
「馬鹿にすんなよてめぇ! 殺された仁藤ってカメラマンはなぁ、三年前にここを辞めてからパパラッチまがいの事やって、業界じゃ相当評判が悪かったんだ! 恨みを買う覚えならいくらでもあるらしいて聞いてきたばっかりだよ馬鹿野郎!」
「松木さん! だから捜査情報は漏らしちゃまずいですって!」
松木は叶を睨んだまま手を離すと、自分のジャケットを直しながら言った。
「大丈夫ですよ、こんな奴に喋った所で、捜査に影響ありませんから」
踵を返した松木と乱れた服を直す叶を交互に見てから、相方が叶に会釈して松木の後を追った。二人の背中を見送りながら、叶が独りごちた。
「アイツ、本当に刑事に向いてないな」
想定外の
「何だよ? ゲームでミスでもしたか?」
叶が面倒臭そうに訊くと、玲奈が口を
「あの声のバカデカい刑事も知り合い?」
「え? あぁ、ありゃ石橋さんの
「パパが恨まれてたってどういう事?」
玲奈が身を乗り出して、噛みつかんばかりの勢いで尚も訊いた。叶はうるさそうな顔で返す。
「オレに訊くなよ、刑事が言ってんだからそうなんだろ?」
「パパはそんな人じゃないもん!!」
車外に漏れるほどの大声で
「昼メシ食いに行くぞ」
走り去るバンデン・プラを、覆面パトカーの傍らに立った松木が
「見つかったか? バンプラ、だっけ?」
「あぁ、大分絞れたよ。やっぱり古い車種だから、そんなに多くないね」
「どうやって見つけるんだ?」
「今はネット社会だからね、ちょっと検索かければ結構情報は転がってるよ。SNSとかやってる連中は、個人情報とかプライバシーとか全然気にしないから、平気で車のナンバーも写してアップしちゃうんだ」
「気をつけねぇとな、俺達も」
《続く》
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます