匿う男 #7
叶は深い溜息を
「もういいぞ」
デスクの下から出て来た玲奈は、何故か不満そうだった。
「何だよ? 狭いのダメだったのか?」
叶が訊くと、玲奈は叶の対面へ腰を下ろして訊き返した。
「何でウチの事隠したの?」
「依頼人を守るのも探偵の義務だよ」
「それだけ?」
「はぁ? 何が言いたいんだ?」
「……別に」
それきり、玲奈は押し黙ってスマートフォンに向かった。叶は困り顔で首を
玲奈の後ろを通ってデスクに取り付き、アームチェアに座って引き出しからノートパソコンを出して起動する。
「オイ玲奈、オマエの親父さんの名前、漢字でどう書くんだ?」
叶の質問に、玲奈は面倒臭そうにソファから腰を上げてデスクに近づき、無料通信アプリを使って『仁藤巧』と入力して画面を叶に突き出した。
「これ」
「サンキュー」
文字を確認して礼を言うと、叶はポータルサイトの検索エンジンに仁藤の名前を入力して検索をかけた。筆頭に仁藤の仕事用のホームページが上がったので
落胆してノートパソコンを閉じた叶に、玲奈が言った。
「ねぇ、やっぱ一回家帰りたい」
「ダメ」
「何で?」
「刑事が来たって事は、もうオマエの家には
「もう終わってるかもしれないじゃん!?」
強い口調で混ぜ返す玲奈を見て、叶は溜息混じりに言った。
「……判ったよ。ちょっと行く所あるから、ついでに見に行くか」
「やった!」
喜ぶ玲奈を見て微笑する叶が、ふと疑問を覚えた。
「あれ? オマエ学生じゃないのか? 学校行かなくていいのか?」
「学校? あぁ、自主停学」
玲奈の自分勝手な答に、叶は
「何が自主停学だよ、要するにサボリだろうが。そんな事してたら本当に停学になっちまうぞ?」
「関係ないじゃん、パパみたいな事言わないでよ」
「……ハイハイ。それじゃ行くぞ」
会話を打ち切った叶が、デスクの引き出しから車の鍵を取り出して玄関へ向かい、玲奈が無言で後に続く。
叶が階段で一階へ下りて振り返ると、ついて来た筈の玲奈が見当たらない。
「あれ?」
焦って周囲を見回す叶に、エレベーターから出て来た玲奈が声をかけた。
「何やってんの?」
「オマエさ、若いんだから歩けっつったろ?」
叶が言うと、玲奈は目を
「いいじゃんどっちでも。だりぃし」
叶は舌打ちを残して先へ進んだ。玲奈はライダースジャケットのポケットに手を突っ込み、膨れっ面でついて行く。
月極駐車場に停めてあるバンデン・プラに乗り込んだ叶がエンジンをかけると、助手席に収まった玲奈が訊いた。
「ねぇ、この車ってスマホ
「古い車だからな、そんな今風なもん付いてねぇよ」
「マジ?
うなだれる玲奈を横目に、叶はカーラジオのスイッチを入れた。流れて来たのがニュース記事を読むアナウンサーの声だった為、玲奈はあからさまに嫌そうな顔で窓の向こうへ視線を飛ばした。
駐車場を出たバンデン・プラは、熊谷ジムへ向かうコースに乗り、昨夜叶と玲奈が出逢った地点で横道に入った。暫く進んだ所に玲奈が住むマンションがある。
「停めて!」
玲奈の指示に従って叶が停車するなり、玲奈がシートベルトを外して外へ飛び出した。だが自分の部屋を見上げた瞬間、表情が
叶が言った通り、部屋の扉には警察によって『立入禁止』のテープが貼られていて、その前に制服警官が立っていた。
運転席から出た叶が、ルーフ越しに玲奈に声をかけた。
「納得したか?」
玲奈は力無く頷き、肩を落として助手席に戻った。叶も運転席に戻り、車を出した。
数分の間、車内にはラジオの音のみが流れていたが、やがて玲奈が口を開いた。
「ねぇ、これからどこ行くの?」
「オマエの親父さんが前に
「ふーん」
興味無さそうに返して、玲奈はスマートフォンを取り出した。
十分ほどで、バンデン・プラは『株式会社
《続く》
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