匿う男 #6
「失礼します」
石橋に続いて、同じくスーツ姿の若い男が事務所に足を踏み入れた。石橋がジャケットの左襟に『S1S』と記された、警視庁捜査一課所属を示す赤いバッジを付けているのに対して、その若者は何も付けていない。恐らく所轄署の刑事であろう。
重大な事件が発生した場合に、事件が起きた地域の所轄署に捜査本部が
叶は
「急に来たから、茶も何も出せないぜ」
叶がぶっきらぼうに告げ、石橋が苦笑してかぶりを振る。
「いやいや、お構いなく。で、こちらが――」
石橋が紹介しようとするのを手で制して、若者が身分証を
「
提示された身分証には「
「
古沢に代わり、石橋が身を乗り出して話し始めた。
「昨夜、坂上署管内のマンションの一室で、男性の遺体が発見された。身許は、その部屋の住人で
叶は二人に
「その殺しが、オレと何か関係あるのか? 言っとくがその仁藤とか言うカメラマンの事は全く知らんぞ」
すると古沢が、上着のポケットに手を入れながら口を開いた。
「仁藤さんの
「だから、それがオレと何の関係が――」
反駁しかけた叶を制して、ポケットから手を抜きつつ話を続けた。
「我々は周辺の聞き込みと共に、防犯カメラ等の映像をチェックしました。すると、現場から数十メートル離れたコンビニエンスストアの防犯カメラに、こんな映像が映っていました」
古沢が一枚の写真をテーブルに置いた。そこには、路上に停めた車の前で何やら話している様子の男女の姿が見えた。表情が曇りそうになるのを、叶は辛うじて
「ここに映っている二人の顔を、拡大して
示された写真に写る横顔は、叶に
「あぁ、確かにオレだ」
古沢は軽く頷き、二枚目の写真を出した。
「では、あなたと話しているらしいこの若い女性、こちらは仁藤さんの娘の玲奈さんです。玲奈さんはこの後、車に乗り込んであなたと共にこの場を去っていますが、どちらに行かれましたか? また、玲奈さんが現在どこに居るかご存知でしたら、お教え願えますか?」
古沢の
「この後、ここでメシを食わしてやったんだが、礼のひと言も言わずにオレが寝てる間にどっか行っちまったよ。今どこに居るか? こっちが訊きたいね」
言い終えた叶が、石橋をチラッと見た。叶を見返す石橋の目は、明らかに
「叶君」
石橋は叶に呼びかけ、玲奈の写真をまじまじと見つめながら続けた。
「この子、凄く似てるよな、麻美さんに」
一瞬戸惑ったが、叶は平静を
「あぁ、最初は驚いたよ、麻美が帰って来たって、正直思った。口調も性格も正反対だったがな」
「そう、だからって、君がそう簡単にこの子を見捨てるとは、自分はどうしても思えないんだがね」
石橋の言葉に、叶は気色ばんだ。
「判った様な口をきくな! いくら麻美にそっくりだからって、縁もゆかりも無い子供を
暫く視線を戦わせてから、ゆっくり石橋が目を逸らした。
「そうか……
石橋は古沢に告げて立ち上がり、叶に会釈して玄関へ向かった。古沢は困惑しながらも、叶に形式通りの礼を述べて石橋の後に続いた。
《続く》
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