匿う男 #3
翌朝、日課のランニングを終えて事務所の玄関扉を開けた叶の目に、非常に不満そうな玲奈の顔が飛び込んだ。判っているとは言え、麻美そっくりの顔が突然現れると、戸惑いは隠せない。
「うぉっ! な、何だよ?!」
「シャワー浴びたい」
「ねぇよ」
叶がにべもなく返した途端、玲奈が
「はぁ? ありえないし、アンタここで生活してんでしょ? シャワーも無くて平気な訳? それ人間としてどうよ? ねぇ!」
叶は首に巻いたタオルで額の汗を拭ってから、苛立ちを露わにして言い返す。
「うるせぇな! オレは
「副業? 何それ意味判んない、じゃ家帰る」
「ダメだ」
「何でよ?」
「オマエ
「そんなの判んないじゃん」
「とにかく今はダメだ」
「何よケチ」
頬を
「メシ食い行くぞ」
「え、
玲奈の問いに、叶は右手の人差し指を立てて下に向けてから玄関扉を開けた。玲奈が慌てて後を追う。
「あ、ちょっと待ってよ!」
追いついた玲奈を先に外へ出してから扉を閉めて施錠し、叶はエレベーターのボタンに手を伸ばしかけた玲奈の腕を引いた。面食らった玲奈が足をもつれさせたが、叶に支えられて転倒は
「危ねぇな、急に引っ張んなよ!」
「若いんだから自分の足で歩け」
悪態に
事務所の真下にある
「おはようッス」
自動扉をくぐって叶が中に入ると、店のマスターの妻でウェイトレスの
「おはようともちん!」
「あ、ママ、じゃなくて桃ちゃん、おはよう」
「ともちん? アンタともちんって呼ばれてんの? だっさ」
陰から聞こえた
「失礼ね! 誰そこに居るの?」
「ウチ?」
叶の後ろから顔を出した玲奈を見て、桃子が息を飲んだ。
「――! と、と、ともちん、も、もももしかしてこの子」
目を大きく見開いたまま、必死に言葉を
「あぁ、驚かしてごめん。物凄く似てるんだけど、麻美じゃないんだ」
「え? そうなの? だってこんなにそっくりじゃなぁ~い!」
言うが早いか、桃子は玲奈を捕まえて出入口脇へ連行し、そこに貼られた麻美の顔写真と並べて
「ねぇ何なのこのオバサン、ウザいんだけどぉ~!」
「あ、バカ」
「ちょっと! 誰がオバサンですって!?」
玲奈の言葉に素早く反応した桃子が、顔面を
「あ、も、桃ちゃん、落ち着いて。玲奈、オマエそこに座ってろ!」
叶に指示されて、玲奈は頬を膨らませながら近くの二人掛けテーブルに取り付いた。
「ねぇともちん! 何なのよこの子!? 超ムカつくんですけど!?」
「ご、ごめん桃ちゃん、事情は後で。それより、カレーライスくれる?」
叶の注文を聞いて、それまで鼻息を荒くしていた桃子が少し落ち着きを取り戻した。
「カレー? て事は、ともちんお仕事入ったの?」
《続く》
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