匿う男 #1
軽快なBGMを切り裂く様に、乾いた
『
「よぉし、もう一丁!」
叶の
ジム内に、三分経過を告げるベルが鳴り渡り、思い思いの練習をしていた練習生達が一斉に動きを
「OK! 今日はこれまで!」
叶が大声で告げると、練習生はファイティングポーズを
「ありがとうございましたぁ!」
ミットを外してリングを下りた叶に、練習生が後ろから声をかけた。
「あの、叶さん」
「ん?」
「叶さんって、たまに来なくなりますよね?」
「あ、あぁ、まぁな」
言葉を
「叶さんは、教え方も
「あ、悪い」
照れ笑いと共に練習生の言葉を
「オレ、本業はあっちなんだ」
叶が差した先には、十代と思しき女性の顔写真が大きく
ジムの
「うわっ」
叶は思わず声を上げ、ブレーキペダルに全体重をかけた。
「あぁびっくりしたぁ……あっ」
大きく息を吐いた直後、叶は
「オイ! 大丈夫か!?」
叶は女性の
「あ……麻美?」
その顔は、ジムに貼ってあったチラシの顔写真、即ち叶の妹の麻美と
声をかけられた少女は、数秒キョトンとしていたが、急に顔をしかめてまくし立てた。
「は?
顔に似合わぬ口汚い
叶は彼女の身体から手を離し、立ち上がって告げた。
「そんなに元気なら心配ねぇな」
「はぁ? ふざけんな、今ウチは
いくら麻美にそっくりとは言え、赤の他人から二度までもオッサン呼ばわりされて
「ふざけんなだと!? そりゃこっちの
「何だとこの――」
やり返そうと口を開きかけた少女が、来た方を振り返るなり顔を引きつらせ、急に立ち上がって叶にすがりついた。
「そんな事より助けて! 変な
「変な奴等?」
叶が
「誰も居ないみたいだぞ」
「とにかく助けてよ」
そう言うが早いか、少女は叶の脇をすり抜けてバンデン・プラの助手席に入り込んでしまった。慌てて叶が運転席側に回り込み、ドアを開けて
「オイ、勝手に乗るな!」
「いいじゃん減るもんじゃなし、それより早く車出してよぉ」
急に声のトーンを上げて、
「くそっ、逃げられた」
「
「どうする?」
「バンプラだったね」
「バンプラ?」
「車だよ。僕が昔観てた刑事ドラマで主役が乗ってたんだ」
「それがどうした?」
「今時あんな車乗ってる人、そんなに居ないでしょ。案外簡単に見つかると思うよ」
「なるほどな……頼むぜ」
《続く》
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