蘇る本能 #30

「どうだ、オレのギャラクティカマグナムは? これは史穂ちゃんを怖い目にわせたお返しだ!」

 口の端から血を流しつつ、叶を憎悪に満ちた目で見上げる薩摩を、石橋が引きずる様に連行した。

 溜息を吐いた叶の前に、気色悪い笑顔を浮かべた松木が立ち塞がった。

「何?」

 面倒臭そうに訊く叶の右手首に、松木が素早く手錠を嵌めた。

「オイ! 何の真似だ?!」

 動揺して問う叶に、松木は笑顔のまま、

「おまえも参考人だからな、事情聴取に来てもらうぞ」

 と告げて叶を引っ張った。

「ちょっと待て! 参考人に手錠かけねぇだろ普通! 外せよ暴力デカ!」

「抵抗すると公務執行妨害でパクるよ」

 穏やかな口調で告げると、松木は嬉々として叶を連行した。


 トランクス一枚のまま警視庁内の留置場りゅうちじょうで一夜を過ごす羽目に陥った叶は、翌朝にスポーツバッグとスマートフォンを持って現れた石橋に悪態を吐いた。

「何でオレがブチ込まれなきゃならないんだよ?」

「すまん、さっき松木君に聞くまで知らなかったんだ」

 石橋の謝罪に舌打ちを返すと、叶は看守係が開けた扉をくぐり、バッグとスマートフォンを受け取った。中身が無事なのを確認すると、石橋にトイレの場所を訊いて急行し、用足しついでにスーツに着替えた。

 トイレを出た叶を促して、石橋が先に立って歩きながら話し始めた。

「薩摩の自供によると、あの地下格闘技の会場は、元は薩摩の父親が経営していた印刷工場だったらしい。それを『鳳金融』名義に書き替えて改造した様だ」

「へぇ」

 興味無さそうに相槌を打つ叶をよそに、石橋が続ける。

「それと、事故死した高垣は、あの地下格闘技で死んだ選手を処理する担当だった。あの時は、ペドロ・アンドラーデの死体を遺棄いきしに行く途中だったらしい」

 話し終えた所へ、叶が言った。

「なぁ石橋さん、薩摩に、佐伯仁という男について訊いといてくれないか? 『蘇るパンクラチオン』に関わって、行方不明の筈だ」

「佐伯? 判った」

 了承した石橋が『会議室』と表示された部屋の前で立ち止まり、出入口の扉を開けて中に入った。後について叶が入室すると、中で史穂が椅子に座って俯いていた。その後ろに松木が立っている。

「よぉ。どうだった留置場の居心地は?」

 気色悪い笑顔で訊く松木を無視して、叶は史穂に声をかけた。

「史穂ちゃん!」

 声を聞いた途端、史穂が顔を上げた。叶と目が合うと、目に涙を滲ませて微笑んだ。叶も微笑を返しつつ歩み寄って尋ねる。

「ごめんな、怖い思いさせて。怪我けがは無い?」

「はい。大丈夫です」

 史穂が涙を指でぬぐいながら答える。安堵して頷く叶に、石橋が言った。


《続く》

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