蘇る本能 #24
映し出されたのは、両手と両足を縛られ、猿ぐつわを噛まされた状態で寝転ぶ史穂の姿だった。
「オイ何の真似だ!? 依頼人に手を出すなと言った筈だ!」
『そんな約束をした覚えはありませんね、彼女は貴方の依頼人であると同時に、坂巻さんの唯一の肉親ですからね、当日になって貴方がたふたりが示し合わせて逃げ出す事も考えての保険ですよ』
言葉の端々から滲み出る
「まさか史穂ちゃんに危害を加えたりしてねぇだろうな!?」
『それは御安心ください。彼女を傷ものにしたら貴方だけでなく、坂巻さんにも恨まれてしまいますからね』
「……本当だな?」
『そこは信用して頂くしかありませんな』
声のトーンを落として言うと、薩摩は『では明日』と言い残して一方的に電話を切った。受話器を叩きつける様に戻すと、叶はアームチェアに荒々しく腰を下ろし、デスクに両
大分長い時間、同じ姿勢で
叶は暫く名刺を睨みつけていたが、舌打ちしてから受話器を掴んで電話番号を押した。
数回の呼び出し音の後、電話が繋がった。
『はい、石橋です。叶君か?』
一週間前に入手した叶の名刺から、既に電話番号を携帯電話に登録してあるのだろう、石橋の反応は速かった。叶は受話器を握り締めたまま、なかなか口を開かない。
『もしもし? 叶君だろ? どうしたんだ?』
石橋が尚も訊くと、叶は大きく息を吐いてから、絞り出す様に言った。
「頼みがある」
翌日、叶は事務所から一歩も出ずに、ひたすら夜を待った。服装こそ黒のスーツに青ワイシャツ、緑のネクタイという、いつもと変わらぬ装いだが、傍らには熊谷ジムへ指導に行く際に使うスポーツバッグが置いてある。普段なら『カメリア』へ下りて摂る朝食も、電話で桃子に無理を言って届けさせ、昼食は出前のそばで済ませた。この間に何度か史穂のスマートフォンに電話をかけたが、すぐに留守番電話に切り換わってしまった。
陽光が赤みを帯びた頃、事務所の電話機が鳴った。叶がそれまで腰掛けていたソファから弾かれた様に立ち上がり、受話器をもぎ取って耳に当てると、薩摩の声が聞こえた。
『どうも、薩摩です』
「やっとか」
『迎えの車をそちらにやりました。あと二、三分で到着すると思いますので、ひとつよろしくどうぞ』
「……判った」
叶の返事を聞くと、薩摩はすぐに電話を切った。叶は受話器を戻し、スポーツバッグを肩から提げて事務所を出た。
《続く》
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