第32話 王族パトラ
パトラは試験前の待機部屋に連行されていた。ジル一行、スーザン、ハルとルーサーと向き合い、バツの悪そうな顔をしていた。ダルクとパトラは逆に、パトラ側にいた。そして、先ほどからダルクとジルが言い合いのようなやり取りを繰り返しているのである。
「ダルク、君だってわかるだろう、パトラが使った強力な魔術!!」
「だからといってなんで問い詰める必要があるんだって話だろうが……。冒険者の過去の詮索は可能な限りしない決まりだってあるだろう」
「その範疇を超えているんだと言っているんだ!!」
パトラも驚いたことではあった。正直、ダルクが一番問い詰めてくると考えていたのだ。そんなダルクは今自分をかばう側。必死で言い訳を考えていた自分がバカバカしく思えてしまう。
「……ダルク、ありがとね」
「……なんだ、急に」
「いやね、とりあえず、私のこと、話しておこうと思うわ。どっちみちいつまでも隠せるもんじゃないってことぐらいはわかってたもの。あの時にキレた私が迂闊だったし、話すタイミングが早くなっただけよ」
「……わかった」
「話せる範囲で問題ないですからね、パトラ」
ダルクとミーアは、パトラと向かい合う位置に移動する。パトラ一人にほかの全員が向かい合うような形になった。パトラは深く息を吐き、おもむろに口を開く。
「改めて名乗るわ。私はパトラ。パトラ・ファラ・ディアス。魔族の貿易国家、ネーデルの魔王の娘で、本来は第一位の継承権を持つ、次期魔王だった者よ」
「……」
「ネーデルは魔族の国における他種族との貿易のかなめとなるような国でね。いろんな国の連中がやってくるの。そんな国を次期魔王としてよりよくするために、私は為政者としての修行に励んでいた。ただ、私は生まれつき魔力が強すぎる体質でね。その魔力が必要以上の成長を妨げるようになってしまったの。私はそれを理由に、血がつながっているだけみたいな親族に継承権を奪われたの。こんなちんちくりんに魔王なぞ勤まるわけがない、だったかしら。継承権を奪われると今度はその親族が命を狙ってきた。私という本来の継承者が気に食わなかったのでしょうね。だから私は、友人の商人の力を借りて、ネーデルを抜け出し、ランス国で冒険者になった。これが私の顛末よ」
「いいのかよ、そんなこと話して……」
「いいから話したのよ。私はもう継承権を持たない。ネーデルにいるから問題だっただけよ。今回発動した魔法、王権魔法っていうんだけどね。この王権魔法はディアブロ族の王が作った魔法で、ディアブロ族の血を媒介に発動させる特殊なものよ。ディアブロ族なら少なくとも一つは使える。これで私個人が特定されることはないわ。私が使ったのは懺悔の唄。特定の罪を犯したものを暴き出し、罰を与える。珍しいものだけど、ね」
パトラはそこまで話すと穏やかな笑みを浮かべた。幼い外見も相まって、非常にかわいらしく見えたその笑みをすぐに崩すと、心配そうな顔をダルクへと向ける。
「怒らない……のね、ダルク」
「は?」
「私は王族。あなたは貴族が嫌いなんじゃなかったの?」
「……あのなぁ。さすがに貴族みんなが嫌いってわけじゃねえんだよ。権力を傘に着るような奴が嫌いなだけだ。貴族だからって突き放したりはしない」
「……そうね、ダルクはそういう人だものね」
その答えを聞いて安心したパトラは屈託のない笑顔を浮かべた。
「あ、そうそう、ダルク。預けてた指輪を返してほしいのだけど」
「ああ、そうだったな。ほら」
ダルクはパトラに指輪を手渡す。それを受け取ったパトラは、大事そうに胸の前で握りしめ、目を閉じた。
「大切なもの、なんだな」
「ええ、父様からの贈り物よ」
そういうとパトラは指輪を右手の人差し指に嵌める。その指輪を眺める顔は、とても穏やかだった。
設定5 パトラ・ファラ・ディアス
体格故に継承権を奪われた、ネーデルの魔王の娘。ディアブロ族の中でも規格外の魔力を保持し、その影響で成長、老化が極端に遅く、見た目は12歳程度。実際は36歳である。あらゆる魔法技術を収めており、治癒魔法以外のすべての属性の魔術を操る。貿易国家の生まれらしく、素材の換金等の勘定ができる。加減知らずの無鉄砲ではあるが、貯えた知識を即座に有効的に使えるキレの良さも持っている。
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