第23話 冒険者都市 メロリヨン
次の日の昼過ぎ、馬車は何事もなくメロリヨンへ到着した。ダルクのメロリヨンの第一印象は賑やかなところだなというものであった。それが街を囲む壁の検問所からでもわかるのだから、中はさぞかし賑やかなところなのだろうと思う。同時に、それだけではないことも察する。壁はかなり高く作られており、飛行可能な魔物であってもその上からなら容易に撃ち落とせるだろう。さらに、壁に蔦植物が絡みついているのがわかる。針金蔓と呼ばれるその植物は、鉄のように硬く、火に強いという特性を持つ。これを壁に絡ませておくことで壁をより頑丈にしているのだろう。
冒険者都市メロリヨンは同時に強固な要塞都市でもあるということがそれだけでもわかるというものだ。当然でもある。魔物があふれる領域が近いのだから、それだけの戦力は必要だし、それに伴う設備の充実も必須である。国境の国でもこんな頑丈なものは用意しないだろうと思うほどではあるが、何があっても大丈夫なように備えるなら、過剰な守りなど存在しない。加えて、冒険者から一部収められる税もある。メロリヨンはその収益で十分以上に守りを固められるはずだ。
「ここまででいい、世話になった」
馬車が門の前に待機していると、唐突にそう告げる声があった。それはあの4人組の1人のもので、馬車主に対して麻袋を投げ渡すと4人ともが馬車から降りて行った。
「おい、一緒に入ったほうが楽じゃねえのか?」
「必要ない。外で用があるだけだ」
馬車主の申し出を断ると、その4人は門とは別の方向へと歩き出した。
「……まあ、もらうもんはもらったしな」
麻袋の中身を確認した馬車主が、それでも腑に落ちないといった感じの声を出す。その中身は言っていた金額より少し多めに入っているように見えるが、馬車主はその辺は気にしていないようだ。
「ジル、ああいうのはよくあるのか?」
「ダルクはメロリヨンに来たことはないんだったね。いや、まあ当然ではあるけど普通は馬車ごと入る。身分の証明がそのほうが早い。ついでに言うならこの壁の外側なんて碌なものはないし、わざわざここで降りる理由はない。まあ、門はここだけではないのだけどもね」
「……そうか」
ダルクはそこまでで口を閉ざした。その顔は明らかにあの4人組を怪しいと考えている表情であった。
そうこうしているうちに、ダルク達の乗る馬車の番になった。門番と馬車主が何か話しており、別の門番が馬車の中を覗き込んで言った。
「一応だが、全員名を名乗り、身分証明できるものを出すように」
その門番の言葉に全員が冒険者の登録証を出す。
「じゃあその3人、人族と獣人と……ああ、角付きだから魔族かな? 名を」
「ダルク・オルレアンだ」
「パトラ・ディアスよ」
「ミーア・フローレンスと言います」
それを聞きながら門番が紙に何かを書き込んでいく。入った人物を記録しているのだろう。
「ジル・ドレェリアだ」
「……エレナ・ヴァーツキー」
「えっと、はい、アキ・コヨーサといいます」
それが書き終わるのを見て、ジル達3人が名乗る。それを聞いた門番がお前は知っていると言わんばかりの視線をジルに向けた。そのあと、最後に名乗ったアキのほうを見ると少し訝しげな視線をジルへと向けた。
「カリギュラのとこから引き取った子だよ。見込みはあるさ」
「……深くは聞かない。今は仕事中だ」
門番はそれだけ言うと、ダークエルフと竜人のほうへと顔を向けた。
「ルーサー・コレッタという」
「アタシはハル・ライチ」
門番はその名を書き記す。ダルクはあの2人はそんな名前だったのかと今更ながらに感じていた。
「よし、いいぞ。メロリヨンへようこそ」
門番はそういうと、馬車が通れるように道を開ける。そしてダルクは冒険者都市、メロリヨンへと足を踏み入れたのだった。
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