第22話 疑わしい4人

「ここまで何もないと逆に不安になるわね」


「なにもねえなら問題ねえだろうが……」


「順調なのは良いことです」


 宿場町の酒場で漏らしたパトラの不安の言葉にダルクとミーアが突っ込みを入れた。一行の道中はほぼ何もないまま、最後の宿場町まで到着していた。この道中は本当になにもなかったといえるものであった。確かに、2度ほど魔物の襲来はあった。ただそれは護衛がいなければ窮地となりえたものだが、冒険者が12人も乗っている乗り合い馬車ではさしたる問題とは言えなかった。

 ダルクが少し気になるといえば、同乗している冒険者一組の動向くらいであろうか。エルフと竜人の2人とは多少は会話する程度には交流しているが、馬車で初めて顔を合わせた後の4人とは一言も言葉を交わしていない。男性2人、女性2人のそのパーティーは2度の魔物襲撃の際に戦闘していない。過剰戦力ではあったので問題視こそしていないが、乗り合い馬車に冒険者として乗っている以上、こういう時に誠意を見せるべきではないのかとダルクは思っている。また、馬車主が紹介していた宿とは違う宿をとっているという話をジルから聞いた。ジル曰く、馬車主はギルドと提携しているから紹介する宿は信頼できる宿でもあるし、馬車主への礼儀としても紹介された宿を取るべきなんだけどねとのこと。もしくはお金がなければそれより安い宿を取ることになるのだろう。だがその一行は高級な宿をとっているらしいのだ。言われてみれば、装備もかなり上等なものだったとダルクは記憶している。しかし、ダルクは気にするほどのことでもないという結論に達し、注意しておくにとどめている。


「予定では明日にメロリヨンに着くはずだ。今のうちに休んどけ」


 ダルクは果実水を啜る。ミーアの言う通り、順調なのは良いことだ。このままいけば認定試験も問題なく受けることができる。今のうちに休んでおくことが最善なのだからそうするのがいい。

 そんなことを考えていると酒場のドアが開いてジルが入ってくるのが見えた。ジルはダルクを見つけるとそのテーブルまで近づいてきた。


「やあ、相席いいかい?」


「かまわないが、ツレがいないようだが?」


「2人なら馬車主と馬をブラッシングしているよ」


 ジルはそんな会話をしながらウェイターを呼び止め、あまりきつくないような酒を注文する。ダルク達にも進めるような仕草をしたが、3人ともが首を振った。


「なんだ、酒は飲めない口なのかい?」


「好んでは飲まないな。村にいた時は高級品だったし、酔ったりするのは苦手でね」


「多少なら飲むけど、人族の国では飲まないわね。ほら、私の場合見た目がね」


「悪酔いしますので自重しています」


「まあ、無理に飲むものでもないからね」


 と、言っている間に運ばれてきた酒を、ジルは豪快にあおる。一気にその半分近くがなくなっているのを見て、ダルクはよく飲めるなと内心思う。そんな様子を気にすることもなく、ジルはいきなり話を切り出した。


「でだ、少し耳に入れておきたい情報があってね」


「……聞こう」


「同じ馬車の4人組、少しだけ調べてみたんだけどどうも貴族の出らしいんだよ」


「ほう……」


 貴族という言葉に対してダルクは露骨に嫌な顔をする。ダルクにとっての貴族とは富と名誉を独占しなければ気が済まないような下種という印象である。もちろん、全員がそうじゃないことも理解しているが、それでもはめられたという事実はあるのだから、印象が悪くなるのも当然であった。それを隠すこともせずに出したせいか、ジルが若干引き攣った笑いを浮かべている。


「若干怖いね……。ちなみにあの4人は全員星7らしい。で、なんだけど、彼らが試験のタイミングで妨害してくる恐れがあるんだ。どうも過去にも妨害工作をしたことがあるらしくてね。警戒だけはしておいてくれないかな?」


「面倒ね……。なんの目的で妨害をしてくるのかしら?」


「そこまではわからな……「いや、目的なんてねえんだろうよ」」


 ジルの言葉をさえぎってダルクが言葉を挟む。


「実力者が上に上がってくるのが嫌なのかもしれねえ。だが基本的にあいつらのやることなんざ気に食わないの理由くらいしかないだろうよ」


「相当卑屈よね、ダルクって」


「貴族に対してってだけだ」


 そこまで言うとカップに残っていた果実水を一気に飲み干すと、立ち上がる。


「とりあえず、警戒はする」


「……わかった、俺はあのエルフと竜人の2人にも伝えておく。ダルク、露骨には警戒しないようにね」


「わかってるがな。まだ疑わしいだけだ。俺らの村では疑わしきは罰せずっていう方針だった。とりあえずは、それに習っておくが、何かあればすぐに対応するからな」


 そんなダルクを見て、ミーアとパトラは心配そうな顔をして、そのままその後ろについていった。

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