第21話 見覚えのある2人


「さて、そろそろ行くとしようか」


 ジルはそういうと一つの馬車に近寄った。ダルク達もそれに続く。その馬車は相当大きく、15人は荷物込みで余裕で乗れるくらいであった。


「じゃあ、今日はよろしく頼むよ」


「任せてくれよ、ジル。ま、盗賊なりに襲われたら頼むからな」


「縁起でもないことはいわないでくれたまえ……。でも任されよう」


 ジルとその馬車の主は顔なじみであったらしい。すんなりと話を進めている。色々物騒な話もしているが、気を抜けないのも確かだということはダルクも思うところである。

 メロリヨンまではここから4日。道はある程度舗装されているし、大体一日ごとくらいの、ある程度安全な位置には宿場村がある。大都市と首都を結ぶ道なのだから、当然ではあるし、警備兵も常駐している。とはいえ、その道で盗賊が出ないわけではない。道はいくつかあるのだが、その全てが安全であるとは言い難いのが現状だ。

 食料と寝床の心配はいらないのは良いことではあるが、それだけであるとも言えるのだ。そんなものだから。冒険者が馬車に乗るというのは同時に護衛としても期待されるというこなのだ。

 何かあったときは心配なのだが、馬車には店員が3日は食いつなげるだけの非常食と飲料が用意されるのが常識だ。道すがらで病にあった時のことも心配ではあるが、医者であるミーアがいる以上、そっちのほうは多少は安全だといえる。

 ダルクが馬車を観察していると、ジルが戻ってきた。


「すまない、待たせたかな。今回は俺たち以外にも二組6人が同乗する。女性は男と一緒で嫌かもしれないが、宿は道々でちゃんととれるはずだから安心してくれ」


「おうとも、俺の馬車に乗るからには快適……とまでは断言できねえが順調な旅路を保証するぜ」


「ああ、よろしく頼む」


「ええ、むさくるしいのは気にしないわ」


「私も別段気にしません、これからの道中、よろしくお願いします」


「ハハ、気合の入った嬢ちゃんたちだ、頼もしい限りだな。ま、乗りな。もうすぐ出るぜ」


 馬車の主はそう笑うと、馬車に乗り込んだ。ダルク達もその馬車に乗り込む。と、もうすでに他の組の人たちは乗り込んでいた。ジルのパーティーとダルクのパーティーの他にいたのは、男性4人と女性が2人いた。


「ん? その2人は……」


 そのうちの2人にダルクは見覚えがあった。遺跡の掃討戦において入口で見かけた珍しい2人組、ダークエルフの男性と竜人の女性だった。


「うむ? 僕たちに何か?」


「いや、この前の遺跡の掃討クエストの時にいたよなってだけだ」


「ああ、あの時のか。僕たちはそのままだったけど、あの後大変なことになったって聞いた」


 ダークエルフの男性は柔らかな口調で答えた。その後ろではミーアとパトラが竜人の女性と何やら話し込んでいるのが見える。


「ダークエルフと竜人とは、このあたりじゃあまり見ないな」


「冒険者としてこちらに来たから。まあ、あいつはどちらかというと鍛冶のほうが本職みたいだけど。まあ、短い間になるけどよろしく」


「ああ、よろしくな」


 ダルクはそのダークエルフの男性と握手した。それとほぼ同時に、馬車は動き出し、メロリヨンに向けて出発した。


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