第16話 紫電陽炎


「ずいぶんと厳重な守りの先にこれだけ……か」


「そのようですね」


 ダルクは刀という武器の珍しさを認識はしていたが、あんなものまでいた扉の向こうにあるものがこれ一本というのはどうなんだろうかと思った。刀と言えば竜人族の腕のいい鍛冶師が作る武器として有名だ。剣は質量を生かしたもので、斬るよりも叩き斬るようなものであるが、それに対して刀は純粋に斬ることに特化している。作成が難しいらしく、性能のいいものは高価で取引される。とはいえ、その刀一本が扉の前の戦闘に見合うかと言われればそうでもないだろうというのがダルクの思いだ。一方のミーアはまるで興味がないという反応だった。

 パトラはそんな二人の呟きを気にもせずに台座に近づく。それを見たダルクは急いで追いつく。遠目ではわかりにくかったが、その刀はとても大きく、パトラの背丈くらいの長さはある。その刀のおかれている台座にはダルクでは読めない文字が書き込まれている。結構長い。


「読めないな」


「古代魔族語よ。魔族なら読める人多いわ」


 そう言ったパトラはその文字を読み始める。


「えっとなになに……『魔狼の試練を超えし者よ、君は資格を得た。我が生をかけ作り上げしこの一品、それは君が持つにふさわしい。龍人の力と我らが魔の力を合わせしこの刀、銘を紫電陽炎という。これは魔力を流すことで電気を纏い、炎を散らす刀だ。是非使ってもらいたい』といった感じかしらね。魔刀ね、これ」


「魔剣なら結構きくが、魔刀は初めて聞くな」


「そうね……。あら、続きがあるわ。『ただし、勇無きもの、触れる事なかれ。触れればその身を焼くであろう』……。物騒なこと書いてあるわね」


「……ともかく、もらっていいんだな、これ」


 パトラの言葉に戦々恐々としながらも、ダルクは刀を恐る恐る手に取った。その刀は赤い鞘に入れられている。装飾は無骨で、さりとて美しさを感じさせるものであった。鞘から抜いてみると、見るだけで切られそうな感覚に襲われるほどの鋭さを感じた。刀一本しかないことに不満を感じていたダルクも、この武器を見れば納得するしかなかった。命を懸けてまで作った一品、というものなのだろう。


「……とはいえ、この大きさの刀は使ったことはねえな」


「なら少し、触らせてもらえるかい?」


 その声に振り向くと、いつのまにか来ていたジルの姿が見えた。どうやら魔物の解体は終わったらしく、アキとエレナも部屋に入ってきていた。


「いつの間に来てたんだよ……。まあいい、ほれ」


「ありがとう」


 ダルクが突き出した剣をジルはためらうことなく手にする。しかし、


「熱っ」


 肌が焼けるような音が一瞬したのと同時にジルが叫び、刀を落とす。刀を持った手は赤くなっている。それを見たミーアがすぐに治癒魔法をかけていた。


「……どうやら、一定条件に満たない人が持ったらこうなる魔法みたいなのがかってるとみていいわね」


「勇無きものとかのくだりのやつか?」


「そうね。これは売れないわね。現状条件がわからない以上ダルクしか使えないわ」


「そうかよ。まあ、せっかくだ、もらっておく」


 ダルクはそういうと刀を背負う。鞘に紐がついており、背中に背負えるようになっていたのだ。こういう遺跡調査で手に入れたものは基本的に見つけた人の物になる。軍では上が徴収していたことを考えれば、かなりやりやすくはなっているのだろう。


「さて、戻るとしようか」


 治療が終わったジルの言葉に全員が荷物をまとめる。ルー・ガルーの死体はパトラが闇の重力魔法で軽くすることで持っていくことになった。


「とはいえ、カリギュラの死亡を報告しなきゃいけないのはつらいね」


 ジルが悔しそうに呟いていた。

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