第15話 遺跡の奥


 ルー・ガルーが倒れたことで、部屋になだれ込んできていた魔物の流れも落ち着き、入ってきた分は全滅した。ミーアが各々が受けた怪我に応急処置を施している。


「まさか本当に倒してしまうとは……」


「正直、賭けだった。パトラの魔法のおかげだな……」


 ダルクは肩で息をしながらそう言った。あれがなければ負けていたのはダルクのほうだった。あの威力、すさまじかったとダルクは素直に評価している。


「身体強化を維持しながら高速戦闘ってだけでもすごいのに、そこから平行詠唱で改変魔法放った奴に言われても皮肉にしか聞こえないわよ……」


 パトラは若干、ふてくされてそう言った。詠唱から推察するに、ダルクの撃った魔法は『天雷』という魔法だった。本来のそれは、威力を突き詰めた大型魔法で、相手の上から落とすか、使用者から放つかされる魔法である。それを、相手の体から発生させるようにしたのは驚愕だったのだ。しかも平行詠唱で。パトラは正直、理解しきれなかったのである。


「……一応、切り札なんでね。剣に魔力を付与した状態で相手を切ることで、その傷に魔力の残滓が残るだろ? それを利用して、残った魔力を発生地点として固定する魔法だったんだ。ただ、詠唱中の傷しか反応しないから平行詠唱は必須なんだよ」


「あんた、相当規格外よね、なんで軍をクビになるのよ……」


 それが、パトラの素直な感想だった。それに、ダルクはふっとため息をついて答えた。


「身分が低かった、なのに出世した、貴族出身のやつの行動に口出した。それだけだよ」


 ダルクはそれだけ告げると立ち上がる。


「人族って変なことにこだわるわね」


「それは私達からすれば……です。私達獣人の考えやあなたたち魔族のこだわりも、人族には変なことかもしれないのですから」


「……それもそうね」


 パトラとミーアも、立ち上がった。その目の前には先ほど出現した大きな扉がある。ダルクとパトラとミーアはその扉の前に並んでいた。ほかの三人は先ほどの部屋で魔物を解体している。ルー・ガルーはそのまま持ち帰るらしい。値が張る素材が多い魔物は解体師に任せたほうが高く売れるためだ。


「パトラ、これはあの狼と連動でもしていたと考えるべきか?」


「たぶんね……。古代遺跡とか失われた技術オーパーツばかりだし私にも理解不能よ……」


 パトラはそう言う。古代には現在よりも数段優れた技術が根付いていたらしいのだが、それは何らかの大災害を以てして滅びているというのが研究の結果としてわかっている。そのときに作られたものが地中から出てくることがあり、そこには当時の技術を研究できるものが大量に残されている。当時の技術は失われた技術と言われている。


「開けたらもう一匹とかねえよな……」


「信じるしかないわね」


 心配そうにつぶやいたダルクを無視したパトラは、他の人の意見を聞く前に力いっぱいその扉を押した。勢いよく開いたその扉の先は、魔術の明かりが維持されており、まるで日中のように明るかった。しかもその部屋は塵一つ存在していない。


「経年遅延魔法がかかっているわね……。これも失われた技術オーパーツね。物の劣化を遅くするとかいう……。この遺跡結構すごいのかもね」


 パトラが感心したように呟いた。しかし、この部屋には財宝の類はなく、中心の台座にたった一本の刀がおかれているだけだった。

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