第13話 VS ルー・ガルー

「2人とも、でかいのかますわ!!」


 真っ先に動いたのはパトラだった。ダルクとミーアにそう叫ぶと、手を前に出し、己の魔力を高め始めたのだ。そしてその口が動き、誰にも聞こえないような声を発する。ダルクはパトラが詠唱に入ったと理解し、ルー・ガルーの注意を引くべくルー・ガルーへと突進する。パトラの魔力に危機感を示したルー・ガルーが動くのはそのダルクとほぼ同時だった。お互いに速度を上げたまま肉薄し、剣と爪が甲高い音を立ててぶつかる。


「くっ、結構重い……」


 その巨大な爪の攻撃に対して、ダルクの剣では威力を消しきることはできず、ダルクは表情を一段と険しくする。それでも、何とかパトラに対する攻撃をそらし、後方へと受け流した。

 その一連の動作でルー・ガルーが少しだけ体制を崩した。それを逃すまいと、ミーアが接近し、その鼻に渾身の拳を打ち込んだ。


「Gaaaaaaaa!!」


 その一撃は効いたのか、ルー・ガルーは咆哮とは違う鳴き声を上げた。それでも、すぐに起き上がってくる。


「チッ、浅い」


 ミーアは毒づきながら相手から距離を取った。ルー・ガルーはミーアを危険と判断したのか、パトラを無視してミーアに狙いを定めたようだ。


「Guooooooooooooo!!」


 咆哮が上がる。それと同時に、今まで迫ってきていた遺跡の中の魔物たちが一斉に部屋に押し寄せてきた。


「ここは通さない」


「こっちは、抑える」


 ジルとエレナは迫りくるゴブリンやイビルラビットを部屋に入れまいと迎え撃った。ダルクとしては、先輩二人が大物を抑えるべきだろうと文句の一つも言ってやりたいところではあったが、今はその言葉を飲み込む。今はパトラに攻撃がいかないようにするほうがいい。ルー・ガルーは今のところはミーアに対して攻撃を続けている。ミーアはそれをきれいにかわしてはいるものの、反撃の糸口もつかめていない様子だった。ダルクはルー・ガルーの後ろに回る。


「はあ!!」


 その後ろ脚に剣を突き立てる。それなりに深く刺さったが、たいしたダメージにはなっていないらしく、ルー・ガルーは後ろ蹴りを放ち、ダルクはその場を飛びのいてかわす。それまでいた位置に追撃の落雷が発生し、遺跡の床を焦がした。


(パトラ、まだか……)


 ダルクは内心焦っていた。相手の攻撃はかわせないほど苛烈ではないし、どちらかに集中している間に攻撃できれば、ダメージにもなる。だが、それは何とかやっている程度でしかなく、息切れでもしようものなら一瞬で餌食になるのは明白であった。

 とはいえ、ダルクには今のところ決定打がない。ダルクが本格的に攻めるには相手の動きは素早すぎる。身体強化の魔法を使えばスピードそのものは上げることができるだろうが、ダルクの使えるその魔法は雷属性だけだ。これは、長くは持たない上に反動が大きすぎる。それを使っても素早さは相手に並ぶ程度までしか上がらないというのがダルクの目算だった。

 一方のミーアには相手に致命傷を与えうる攻撃手段はなかった。むき出しの拳では威力が足りないのだ。獣人としての強靭な肉体はあれど、大型の魔物相手に致命傷を叩き込めるほどの力はない。ミーアも少しずつ、焦りを感じ始めていた。

 人には悟られないほどの小さな焦りの感情でできた隙。ルー・ガルーはそれを逃さなかった。2人に対して素早くその爪を振う。それに対応してダルクは剣を構え、ミーアは腕を交差させて守る。


「クッ……」

「うぅ……」


 重い一撃を凌ぎはしたが、そこまでだった。ダルクはすぐに体制を立て直した。しかし、ミーアは存外にダメージが大きかったらしくすぐには立ち直れていなかった。ダルクはとっさにミーアの前に立つ。ルー・ガルーが追撃に移ろうと身をかがめたその時だった。


『氷よ、楔となれ!!』

「フローズン・チェイン!!」


 完成したパトラの魔法が放たれた。発生したいくつもの巨大な氷柱がルー・ガルーへと突き刺さる。


「Gaaaaaaaaaaaaaaaaa!!」


 今までとは比べ物にならないほど大きな叫び声をあげるルー・ガルー。おびただしい量の血が飛び散り、氷柱にぶつかり凍り付く。ただ、それでも絶命するには至らなかったのか、怒りの眼を輝かせる。


「しぶといじゃないの……」


 大型魔法を放った疲労でパトラは疲れを見せている。暫くは動けないかもしれなかった。だが、ルー・ガルーも氷の魔法の影響か、動きが鈍くなっていた。

 そのルー・ガルーを見たダルクが、もう一度剣を構えなおした。

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