第11話 隠し扉のその向こう

「ここだね、隠し扉っていうのは」


 昨日の掃討作戦が効いているのか、道中は魔物に遭遇することもなく隠し扉まで来ることができた。隠し扉は昨日のままになっている。誰も出入りはしていないようだった。


「この先、なにがあるかわからない。各員注意して進むようにね」


 先陣はジルとエレナが切る。ほかの四人は後ろからついていくということになる。

 いざ、その隠し扉を開けると薄暗い空間が広がっている。だが見える限りでは一本道の通路になっているようだった。


「暗いな、ランタンでは心もとないかな」


「明かりをつけるわ。光属性は使えないから火属性でいいわよね?」


「ああ、頼むよ」


 パトラが魔法を使い火の玉を発生させる。ふよふよと浮いてあたりを照らし、視界が確保された。


「無詠唱でできるのか。器用だね」


「どうも」


 パトラはそっけなく返した。その明かりを頼りにして歩みを進める。

 少し歩みを進めたところで、一本道が続いているだけだった。何やら拍子抜けだと感じるようなものだ。だが、パトラは後ろを振り返っていた。


「パトラ、何をしているんだ?」


 それに気づいたダルクがそれとなく聞くとパトラはそのしかめっ面のまま、ぼそりと答えた。


「この遺跡、おかしい」


「なんだと?」


「それ、詳しく聞かせてくれないかな?」


 パトラの一言にはダルクだけではなくジルも反応した。その言葉にパトラは、追加で火の玉を発生させ、後ろのほうを照らした。すると、さっきまで一本道だった通路が、三方向に分かれて見えていた。


「これは……」


「巧妙に隠してあったわ。行きは一本道、だけど帰りは迷路。こういう脇道に本命の部屋がある可能性もあるけど、簡単に奥まで行ける設計になってるの。まるで、出られるほうが都合が悪いとでもいうかのように……ね。焦ったりして道を間違えれば迷うかもしれないわよ」


「一体何の目的かはわからないけど、はっきりとわかることは、カリギュラがこれに気づいていなかったということだろう。あいつは基本無頓着だからね。まずはこのまま奥を目指そう。マッピングはまかせていいかい?」


「わかったわ」


 それからの道はパトラがマッピングを行いながらということになっていた。進む速度は落ちるが、帰りに迷うよりはよっぽどいい。

 一行はそのまま歩みを進めたが、その一本道に見える通路がそのまま続いているだけだった。罠の類も一切なく、それが逆に不気味だった。

 しかも、半刻もたたないうちに最奥地に到達することになったのである。。目の前には大きな扉があるが、すでにあいていた。その先は大きな部屋になっているようだが、暗くてよく見えない。


「ここが終着点になっているね」


「ここからではよく見えないけど、奥のほうになにかあるわね」


 パトラとジルがそれぞれ報告する。これ以上は入ってみなければわからないだろう。


「さて、ここにカリギュラ達がいなければ、今までの道をしらみつぶしにしていく必要があるかな」


「勘弁してくれ」


 そんなことを言いながら一行はその部屋に足を踏み入れた。最後の一人であったアキが部屋に入ると同時だっただろうか。突如としてその部屋が明るくなった。


「なんだ!?」


「罠? 気づかなかった」


「いや、違うな。そんな罠なんか関係ねえみたいだぞ」


 ダルクは即座に剣を抜いた。何事かと全員がダルクの視線の先を見た。

 そこにいたのは巨大な何か。

 それは赤と金の毛を纏う狼、魔力をあふれさせ、熱気と電気を放っている。

 それは侵入者のほうを見る。

 それは怒りをその顔に浮かべる。

 

「なん……だと……」


「まさか……こんなところに……」


「ルー・ガルー……やばいかもしれないわね」


 その巨大な狼、ルー・ガルーと呼ばれたそれは侵入者に向けて怒りの咆哮を上げ、周囲に電撃と熱風をもたらした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る