第2話

「着きましたよ。二階にある奥から2番目の部屋です。」

そう言いながら階段を駆け上がりいそいそと部屋の前に行く。そして、鍵を開け彼を中に入れる。

「今タオル持ってくるので、ちょっと待っててくださいね。」



 彼にタオルを手渡す。

『、、、ふんフフフん~ふふんフフ~ふ』

家についても上機嫌に鼻歌を歌っている彼に声をかけた。

「あのー、良ければ倒れていた理由教えてくれませんか。」

『、、、わかんない。』

少し間を開けて答えられたその言葉に佑は、戸惑いながらも好奇心をくすぐられた。

「そうですか。わかんないですか。」

『うん!わかんない。』

今度は、きっぱりと答えられた。

「えっと、じゃあ、、、名前、、名前教えてください。」

『えっとね、、、、』

「うん、、」

『うんーと、、、、』

「うんーっと?」

『あっ!』

「あっ?」

『うん!わかんない!』

「、、、、そっか!わかんないか!、、、、、ってええぇ」

『うん!』

大きくうなずきながら、髪から滴る雫をまき散らす彼を見ながら佑は困った末に、こう切り出した。

「じゃあ、、、、名前がないと呼びにくいので、なんて読んでほしいか、教えてくださくい。」

その言葉に困ったようにうつむいて考え込んでから言った。

『難しい、、、、あっそうだ!佑が決めて!』

「いいの⁈じゃなくて、いいんですか?」

『うん!もっちろん!』

そう言ってまた、大きくうなずき雫をまき散らす。

「(あーあ、また床が、、、、まあいいか)じゃあ!、、、、、しずく!雫がいいです。、、、、どうですか?」

『しずく、、、、雫うん!すごくいい‼』

そう言いながら、雫がにっこりと笑った。

「そっか!あっ、、、そうですか!よかったです

。」

『ねえ、佑はなんでそんな変なしゃべり方してるの?』

「変なしゃべり方?、、、ああ、敬語のこと?」

『そっちの方がいい!二ヒヒ~』

「分かった!、、じぁあ、これからよろしく!、、、、雫。」

そう言って雫に笑いかける。

『うん!よろしく!佑!』

雫も笑いかえす。

「ところでさ、雫これ渡した意味って分かってる?」

雫に問いかけながら、彼の手に持つタオルを指さした。

『、、、、なんで?』

一瞬沈黙ができ、佑が雫の手からタオルを取り

「雫っちょっとしゃがんで、、、、こうやって使うんだよ、、、、、」

「(タオルを知らない、名前も倒れてたわけも分からないって、どうしよ。てゆうかこの状況、、、、大きい弟ができたみたい。ちょっといいかも。)」

『おおーー!』

雫の髪が長いので手こずってはいたが、ある程度拭き終わり、雫を中へ通す。

「きれいではないし狭いけど、ゆっくりしってて!あーあと、これ使って」

雫に猫のバレッタを手渡した。

『これどうやって使うの?』

「そっか、、、、前髪じゃまだろ?だから、、、あー

、ほら貸して。」

佑は器用に雫の前髪をまとめ、おでこの上で止めてやった。

『おおー!すごい、ちゃんと前が見える!』

「、、、、良かっ、、、、、たな、、、、、、」

『どうかしたの?何かついてる?』

「いや、何でもない!」

何でもなくはなかった、雫の顔に佑は見とれていたのだ。くっきりとした目鼻立ちに、物腰柔らかな眉、乾いてきた髪が柔らかにカールしている。中でも一番目を引いたのは雫の瞳だった。吸い込まれそうなほどにきれいで済んだ青色の瞳に。

『そっかー。あっ!いっぱいありがと佑。』

少し遅れて佑が反応する。

「、、、、あっ!うん。気にすんなって、俺、一人暮らしで寂しかったし!」

『佑さっきから変、、、、』

雫が佑の額に手を当てた。

「、、、、、えっ⁈だっだあいじょううぶだから、、、、うん。大丈夫だから!」

『そう?少し熱い気がする。』

「(いや、お前のせいだから、ってなんで俺男に照れてんだよ!てか、俺は女が好きで、、、、?あのバレッタだって、もと彼女のだし、、、、でも彼女いたって言っても、俺まだ童貞こじらせてるわけで、、、、って!なに考えてんだ俺―!)」

「あっ!そうだ。さむいだろ?お風呂沸かすから先入れよ。」

『うん!、、、、お風呂?』

雫が首をかしげる。

「ん?まじか、、、、俺が、、、、洗ってやるから、お風呂沸くまで寒いけど待っててな。(んんん?俺がお風呂入れるの⁈いや、当たり前な流れだよな。そうだよな、それに俺が脱ぐ必要ないし!)」

テレビをつけてから風呂炊きのボタンを押しに行く途中、自問自答を繰り広げる佑。

雫はというと、佑の言葉にうなずいて、佑がつけたテレビを物珍しそうに見ていた。

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