運命の人拾いました

蝶(かわひらこ)

第1話

「はあ、疲れたー」

いつもの道をいつものように大股でゆっくりと帰る。社会人になって早くも2年がたとうとしていた。今日もまたいつもと変わらない日々が過ぎてゆく。

「つまんないな」

そんな言葉がぼそりと口からこぼれる。そして、何かを期待するように、空を仰いだ。


 ポツリポツリ、水滴が鼻先に唇に次々と落ちてくる。

「雨だ。」

そうつぶやき、焦ったようにかばんを探り始めた。

 傘を忘れたことに気付き、深いため息をこぼす。そうこうしているうちに、雨雲は空を覆い雨粒は大きくなっていた。帰りを急ぎながら鞄をおなかに抱えまもっている。自宅(都内の格安アパート)へ向かう。

 

 ズサッー、鈍い音と水しぶきをあげて盛大に転んだ。雨で視界が狭まり、足元があまり見えなかったのだろう。

「いったたた。あーあ、災厄」

スーツについた汚れを払いながら立ち上がり

、自分が躓いた場所を確認する。

「えっ、、、」

そしてそこにある、いや、そこにいるものに目を見張った。人のようなものが倒れていたのだ。

「大丈夫ですか⁈」

慌てて駆け寄ってみる。しかし、その心境は好奇心と淡い期待でいっぱいであった。つまらなく日々を過ごしてきたこれまでに、終止符を打つ時が来たかもしれないと、おもったからだ。

 駆け寄って倒れているものを確認する。

それは紛れもなく人の姿をしていた。ほっそりしてきゃしゃな体に髪は肩までかかるくらいに伸びていて、顔が前髪に覆われはっきりとは確認できないため、年齢はわからない。見た目こそはきゃしゃだが、芯はしっかりしていることから、男だと推測できた。


「息がある、、、大丈夫ですか、、、意識がない? 今救急車呼びますからね。」

できるだけ大きな声でそう呼びかけ、119番に電話しようと携帯を取り出した瞬間、携帯を奪われた。それも先ほど倒れていた人にだ。

「、、、意識戻ったんですね‼良かったー、僕は江崎えざき ゆうって言います。決して怪しいものではないです。だから、安心してください。」

「(自分で怪しくないって、、、あやしさまんさいだろ。)」

そう心で思いながらも先ほどまで倒れていた人を見つめ、続けて問う。

「あのー、救急車呼ばなくて大丈夫ですか。

けがもしているみたいですし、良ければ呼びますから、携帯返してもらってもいいですか。」

優なりに優しく言ったつもりであった。

『、、、なくて、いい、、、』

佑は彼が、初めてしゃべったことに喜びながら提案する。

「そうですか、、(ここじゃ目立つし、雨降ってるし)、、あの、ここじゃ雨もひどくて冷えますから。、、、よかったら、うちに避難しませんか。」

その言葉を聞いて、先ほどまで衰弱しきっていたとは思えない速さで彼は立ち上がり、しゃがみこんで話しかけていた佑までもを引っ張り起こし、訪ね返す。

『ほんとに⁈いいの‼』

さっきの冷たい声とは違い弾むようなその様子に戸惑いながらも佑は、笑いかけうなずいた。


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