<第2話>
プロローグ もう会えないね
――
ふと、耳の奥、いつかの言葉が蘇った。
視界の隅で流れた髪が、夕陽を浴びて金色にきらめく。
「あ……」
目を向けると、進行方向に夕陽で朱く染まった白いスニーカーの爪先。後ろ手に手を組んで、彼女は軽く小首を傾げてみせた。
「――もう会えないね」
……分かってる。
そんなこと言うはずがないって、分かっている。
「寂しくなるね」
それほど親しい関係じゃあなかったから。
だからこれは――
「……どうして」
訊ねようとした問いが、喉の奥で引っかかって声にならない。
言葉にすれば、音に乗せれば、それを認めてしまうようで――
……死んじゃったんだよ。
顔を上げると、その姿ははじめから存在していなかったかのようにどこにもなかった。
どうにもならない遣る瀬無さと悔しさが重く圧し掛かって、唇を噛む。視線が落ちる。
「××さんは、少し、変わってるから――」
それはきっと、心の声。
今はもういない彼女の、その声を借りた幻聴。
「……気にかけてあげてね」
――その夜、髪を切った。
〝彼女〟との関わりを断ち切るように。
かつて自分の一部だったそれは、金色の火花を散らしながら闇の彼方に消えていった。
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