期末試験開始!
そして、期末試験当日。俺とクラスメイトの面々、そして担任の花井先生は校庭へやってきていた。
「そ、そ、それでは……これから期末試験を始めますっ」
ジャージ姿の先生は俺より緊張していようだった。何度も、俺のほうを気にする素振りを見せている。
なお、今回の試験は欠席者なしの全員参加。これから試験期間中クラスメイトと総当たりしていくわけだ。一人当たりの対戦時間は五分。時間内に失神したり戦意喪失した時点で敗北だ。短期決戦だけに、最初っから全力でぶつかりあうことになる。なお、対戦順はランダムだ。
「ええと……最初の対戦は……永遠くんと、石川田くんです」
花井先生がスマートフォンを操作して、対戦を決める。スムーズに試験を進行するために、対戦を組むためのアプリが入っているのだ。
で、いきなり俺からか! しかも、石川田は岩山田の舎弟だ。名前も三文字だし、いかにも同類っぽい。容貌は猿に似ている。なお、ランクは十二位。相手に不足はない。
この二日間の血の滲むような特訓で、俺のシンクロ率はかなり上がっていた。主人公としての尊厳が失われるような目にも遭ったが……やはり、修行して強くなるのが主人公の王道だ。ちょっと、古い気もするが。
とにもかくにも、俺と石川田は校庭の真ん中に進み出る。
「……この間はよくもやってくれたなぁ、てめぇ……」
そう言えば、美涼の竜風乱舞によって岩山田ともども全裸にされて校庭に積み重なってたっけか、こいつ。
「絶対にぶっ殺してやる……」
穏やかじゃないな。岩山田どころか、岩山田兄までやられているというのに、懲りないやつだ。
そして、肝心の岩山田は……やはり、殺気だった目で俺のことを見ている。こいつのしつこさもいい加減にしてほしい。
そもそも、岩山田も岩山田兄を倒したのも、俺じゃないんだがな! 美涼と水無瀬が倒したのに、俺ばっかり恨まれるのは勘弁なんだが。
「やっちまえ、石川田~!」
もう一人の舎弟である川原田も興奮しているようだった。こいつはオランウータンに似ている。やれやれ……。心穏やかに試験を受けるというわけにもいかないか。
「そ、それでは、始めてくださいっ」
花井先生の緊張した掛け声とともに、試験が始まる。
「……死ねやぁ!」
石川田は魔法で拳を石のように硬くしながら、殴りかかってくる。狙いは、もろに頭部。殺意が高まっているだけに、狙いがわかりやすい。しかも、大振りだ。
これなら、魔法を使うまでもないだろう。俺は腰を落としながら相手の懐に入り込んで、腹部に思いっきり右手を叩き込んだ。
「げはぁっ!?」
……決まった。男の腹部に拳がめりこむ感触は、とても嫌なものであるが。
石川田はそのまま崩れるようにして地面に仰向けに倒れこんだ。
「……あっ、え、ええとっ……? しょ、しょ、勝者っ、永遠くんですっ!」
遅れて、花井先生の声が上がる。まさか、俺が一発で勝つとは思わなかったのだろう。花井先生だけじゃなく、見守っていたクラスメイトたちもポカンとしていた。
どうだ、これが特訓の成果だ!
「永遠っ! やるじゃない!」
校庭からクラスメイトのところに戻ると、勅使河原と水無瀬が出迎えてくれた。
「……うん。今のは、見事……」
水無瀬からも褒められる。
「ああ。勅使河原たちのおかげだ。俺もここまであっさり決まると思わなかったわ。シンクロ率が格段に上がっている気がする」
やはり俺はピンチになると力を発揮するタイプのようだ。あのまま阿佐宮が現れることなく普通に試験に臨んでたら、ここまでレベルは上がってなかっただろう。追い詰められた中で特訓したからこそ、ここまでシンクロ率が上がったのだと思う。
……なんて言ったって、泣いて叫んで漏らすぐらいがんばったからな……。
もう思い出したくないぐらいしごかれたから。かなりトラウマだ。
とにかく、今の俺はこの世界へ来た当初の俺とは違う。ようやく、主人公らしいところを見せられるようになってきた。
「先生ぇ……次、俺が永遠とやっていいっすか?」
岩山田が血走った眼をしながら、花井先生に訊ねる。
「えっ? い、いえ……それは、対戦はランダムですし……連続で戦うのは禁止ですので……それは無理です」
「うるせぇ! 俺がやるって言ったら、やるんだよぉ!」
「ひっ……!」
岩山田の獣のような咆哮に、花井先生は露骨に怯える。しかし、それも仕方ないと思えるほどに岩山田は殺気立っていた。すでに負のオーラが全身から出ているのだ。比喩ではなく、実際に黒いもやのような闘気が漂っている。
ちょっと、尋常じゃない。今までの岩山田とは明らかに雰囲気が違う。魔力も上がっている感じだし……なによりも目の血走り方がやばい。もしかすると……阿佐宮がなにかよからぬことをしたのだろうか。
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