混浴露天風呂を満喫!(?)

 俺たちは、学園から徒歩五分ほどのところにある温泉入浴施設『永久(とこしえ)温泉~エターナルの湯~』へやってきた。さすがは俺の作り出した温泉施設、ネーミングが安直としか言いようがない。


 だが、外観はなかなかどうして瀟洒な佇まい。パッと見、和風の高級旅館みたいだ。敷地面積もかなりのもので、日本庭園まである。錦鯉まで泳いどる。なんだこのジャパニーズセレブの世界は。


「先輩の想像力にしては、よくできてますね。たぶん、テレビかなんかで見たんじゃないですか。旅番組かなんかで」

「ああ、意外とそんなところかもしれんな……。とっくにこんな温泉施設の存在は忘れてたんだが」


「わぁっ☆ 学校の近くにこんな温泉があるなんて、妹子知らなかったよぉ~☆」

「ほんと……すごいじゃない!」

「……純和風建築の中で飲むドクターペッパーもワビサビがあっていい」


 女の子たちの反応は上々だ。ま、女子ってお風呂好きなイメージあるしな。今日はここへ来て正解だろう。


 と、いつまでも入口前で感嘆していても仕方ない。


 俺たちは玄関を上がり(外観は瀟洒な和風建築だが入口は自動ドア)、靴を脱いで、鍵つきの靴箱に靴を入れ、鍵を持って、フロントへ行く。


 そこで、五人分の入浴券を購入して靴箱の鍵を預ける。ちなみに、入浴大人一名700円、レンタルタオルが100円だ。思ったよりは高くない。俺たちは月に三万ほど自由になるお金を学園から支給されているので、昨日遊んだといっても、まだまだ余裕がある。


 ともかくも、フロントをあとにして、館内へ。まずは廊下を進んでいき(壁の左右には行灯を模した和風照明がって趣深い)、途中で広々とした食事処兼休憩スペースに出る。ここは、座敷もあって、窓から日本庭園を眺めることができる。築山や池、鹿威しなんぞもあって、たいへん凝っている。


 そして、食事処は券売機で買って受け渡し口に持っていくスタイルだ。メニューは蕎麦やらカレーやらラーメンやら刺身御膳やら。そこまで高いということはない。なお、給茶機兼冷水機が設置してあって、座敷でゆっくりすることも可能っぽい。


 いまは食事処はスルーでいいだろう。俺たちはさらに奥へと続く廊下を進み、浴場へ向かった。そして、青地の暖簾に白文字で『男』、赤地の暖簾に白文字で『女』と書かれた浴場入口へ辿りつく。


「んじゃ、ここで一旦、お別れだな」


 マジで露天風呂が混浴なら、すぐに顔を合わせることになるのだろうか。ちょっと、刺激が強すぎる気もするが!


「ふふ……先輩、せいぜい身体を洗っている間に束の間の平和を楽しんでください。あ、内湯に籠って露天風呂に入ってこないだなんてふざけたマネをしたら制裁しますよ?」

「わーい☆ おにいちゃんとお風呂楽しみ~☆」

「同志とは裸の付き合いが必要」


 やっぱりこの三人はブレない。一方で、勅使河原は――,


「なんでみんな積極的なのよ……! ああっ、もう、頭おかしくなりそうっ」


 常識人が周りに誰もいない状況で、ひとり頭を抱えていた。


「勅使河原、無理しないで内風呂に入っててもいいんだぞ?」


 周りに変人しかいないから、気の毒だ。思わず、助け舟を出してしまう。


「あ、ありがと……。永遠、あんたって、なんだかなんだで優しいわよね」

「まぁ、勅使河原は貴重な常識人だからな。ここで勅使河原まで、ヒャッハー! 混浴最高ー!とか言い出したら、俺はどうすればいいかわからない」

「そ、そんなこと言うわけないでしょっ!」


 まぁ、キャラが違いすぎたな。でもまぁ、勅使河原にはいつまでも常識的な存在でいてほしい。たまに、暴走してるけど。


「ま、ここで立ち話ししてても仕方ないし、温泉入るか。じゃ」


 今度こそ俺は女の子たちと別れて、男側の脱衣所へ入っていった。時間帯が中途半端ということもあって、客はまばらだ。そもそも、帰りに温泉に入る高校生ってのも特殊やもしれん。


 俺は手近なロッカーを開けて、手早く服を脱ぐ。そして、タオルを片手にガラス戸を開けて浴場へ入った。


 入って身体を洗うスペースがある。左手側にはサウナと水風呂、奥に内湯と薬湯、ジェットバス。ガラス戸を隔てた向こうに広々とした露天風呂が見える。


 寮の浴場も広いが、それとは比べ物にならない。やっぱり、解放感のあるお風呂というのはいい。


 とにかくは、まずは身体を洗うスペースへ移動。上から洗っていく主義なので、まずは頭をシャンプーで洗い、一度流してから、次はタオルにボディソープを垂らして泡立てる。そして、上半身、下半身の順で洗う。股間については、手で洗う。足の指の間までしっかりと洗って、完全に俺は清潔感溢れるボディになった。


 まずは、内湯へ。


「おぉおぉ……」


 やや熱い湯が、身体に沁み通る。内湯にも温泉が使われていて、色は茶褐色。脱衣所の壁には、塩化物ナトリウム温泉と書いてあった。、


「ふぅぅ……温泉ってのもいいな」


 寮にも風呂があるが、やはり広い浴場だと解放感がある。ガラス張りなので、外の景色も見えるし。


「あー、露天風呂行かないとな……マジで混浴なのか?」


 というか、美涼たちは本当に混浴露天風呂に来るのだろうか。なんだかんだで全員超絶美少女だからな。さすがに裸体を見たら平静でいられる自信がない。


 だって、仕方ないじゃない、健全な男の子だもの(みつを風)。


「ま、まぁ……行かないと美涼に怒られるしな。うん、これは世界平和のためなんだ。俺がヒロインと混浴することに意義がある。世界が救われる」


 意味不明な言い訳を口にしながら、俺は露天風呂へと続くガラス戸を開けた。


 七月になったばかりの夕方は、まだまだ明るい。よく晴れ渡った空の下、全裸で温泉というのは解放感がある(股間はタオルで隠しているが)。一応言っておくが、俺に露出狂のケはない。


 ともかくも、俺はタオルを手にしながら露天風呂に浸かる。岩に囲まれた広大な露天風呂だが、奥のほうで女子側の露天風呂と繋がっている。ここからだと、湯気で誰かいるかはよく見えないが。ちなみに、時間帯が幸いしたのか、俺の普段の行いが善いからか、露天風呂は貸し切り状態だった。


「おにーちゃーん☆ いるぅー?」


 そして、湯気の向こうから妹子の声がしてくる。


「ああ、いるぞー」


 とりあえず返事だけはしておく。まだそっちに行く勇気はない。いくら妹とはいえ、裸体を見るのはよろしくない。……よ、よろしくない。


「先輩、善人ぶってないで、こっちに来てください。お風呂シーンで女性キャラを登場させないなんて神をも畏れぬ所業ですよ」


 美涼もやってきたか。水無瀬と勅使河原の声は聞こえないので、結局、内風呂から露天風呂の女湯側にいるのだろうか。


 しかしまぁ……ここで呼ばれるままに、ふへへ、仕方ないなぁ~とか言って混浴スペースに行くのは人としてダメすぎる。俺にも男子高校生特有のプライドというものがないでもない。


「ほら、先輩、早くきてください。めくるめく楽園はこっちですよ」

「おにーちゃん、はやく、はやくぅ~☆」

「ふへへ、仕方ないなぁ~」


 プライドなんて最初からなかったんや!

 ……ま、まぁ、批判は甘んじて受け入れよう。俺は、やっぱり、みんなの裸体を見たい! だって、思春期真っ盛りのラノベ主人公だもの!


 俺はザブザブと湯の中を進んで、魅惑の混浴スペースへとやってきた。


 そこには、胸元まで温泉に浸かった妹子と美涼の姿があった。もちろん、バスタオルなんていう無粋なものはつけていない。妹子はツルペタなので刺激は少ないが、美涼の谷間はバッチリ見えている。


「ふふ、見事なほどに浅ましいツラをしてますね、先輩。そんなに見られたら、さすがの私も恥ずかしいじゃないですか。ですが、悪い気はしません。これでメインヒロインの座は大きく私がリードでしょう」

「えへへっ、おにいちゃんと一緒にお風呂~♪」


 さすがは俺の誇る自重しないヒロイン二名だ。いいぞ、もっとやれ。そうして俺がこの世(あの世)の春を謳歌していると、ザブザブと女湯側から誰かがやってくる。


「ん……いい湯加減」


 水無瀬だった。胸を隠すように風呂桶を持っていて、そこにはドクターペッパーが二缶置いてあった。雪見酒みたいに、露天風呂に入りながらドクターペッパーを飲もうというのだろうか。


「同志永遠……水分補給を」

「お、おう……」


 現実世界では飲食物持ち込み禁止が当たり前だが、この世界の温泉は別にオッケーみたいなことが書かれていた。なんでもありだ。


 俺と水無瀬はドクターペッパーを手にすると、一緒に並んで飲み始めた。魔法でも使ったのか、ドクターペッパーはよく冷えている。ちなみに、脱衣所にある自動販売機にドクターペッパーは売っていたので、調達は可能なのだ。


「ごきゅごきゅ……同志と裸で飲むドクターペッパーは格別」


 水無瀬は満足そうに俺を眺めながら、ドクターペッパーを堪能していた。風呂桶が流されそうになって、胸が見えそうで見えないというスリリングでエキサイティングな状態なのだが。


 そこで、またしてもザブザブと向こうから人がやってくる。


「もうっ、なんでみんな躊躇せずに混浴スペースに行けるのよっ……!」


 顔を真っ赤にした勅使河原が、湯から顔だけ出してこっちにやってきた。露天風呂はそんなに熱くないので、顔が赤いのは羞恥によるものだろう。


 ……ぐふふっ。恥ずかしがるをなごというのも、また格別じゃのう……。ほれ、苦しうない。近こうよれ。俺は心の中の悪代官を解放した。


「な、なにこっち見てんのよっ! もうっ、雷撃で吹っ飛ばすわよっ!」

「ちょ、待てっ、水場で雷撃使ったら全員感電するからっ!」

「もうっ、永遠のスケベ! 変態!」


 勅使河原はプイッと顔を背けた。


「ふん、勅使河原凛は相変わらずですね。そんな恥ずかしがる身体でもないでしょうに。……そもそも、非常にむかつくことではありますが、私より少し胸大きいんじゃないですか?」


 そう言って、美涼は勅使河原に近づいていって、手を伸ばした。


「きゃあぁっ!? な、なにしてんのよ!?」

「くっ……やはり、私より、大きいかもしれませんね」

「や、触らないでよっ、いやっ……! あ、んっ……!」

「別に減るもんじゃないですし、いいじゃないですか。ふふ……私の超絶ハンドテクニックで私に逆らえない身体にしてやりましょうかね」

「んうぅっ……ひゃんっ! や、やめなさいよっ、お、怒るわよっ……ひぃんっ!」


 なんだこの桃源郷は。いいぞ、もっとやれ。


「あんっ☆ 妹子もおにいちゃんとプロレスするー☆」


 そして、妹子は俺に向かってじゃれつくように飛びかかってくる。


「おわっ……! ふふ、やったなぁ、妹子~♪」

「あんっ、お兄ちゃん、えぇ~いっ☆」


 バシャバシャと水をかけあって兄妹愛を爆発させる俺たち。ついでに、妹子が飛び込んだことで水無瀬の胸を隠していた風呂桶は流されていった。


「ふぅ……温泉で飲むドクターペッパーは格別……」


 しかし、恍惚の表情でドクターペッパーを堪能する水無瀬は、ポロリになっても気にしない。そうか。あなたが女神か。


「って、いい加減にしなさいよぉっ!? 雷撃障壁っ!」


 そして、美涼に追い詰められた勅使河原が反射的に雷撃魔法を使った瞬間――。


「「「「「あばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばっ!?」」」」」


 ――俺たちは全員感電していた(勅使河原も含めて)。


 危険なので、お風呂でふざけたり電撃を放ったりしてはいけない。

 ……という教訓を得て、俺は死にそうな痛みとともに失神したのであった。


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