『ぼくのかんがえたさいきょうのらいとのべるのせってい』
中庭でドクターペッパーを楽しみながら、時間を過ごし――。あとは、穏やかに授業が進んでいって、放課後になった。
本来なら放課後の鍛錬の時間なのだが――昨日の激戦の影響なのか、全身筋肉痛な上に、倦怠感があった。今になって、疲労が出てきたというか。まぁ、昨日は命がけの戦いをしたからな……そりゃ、心身に負荷もかかるだろう。というわけで、やる気が出ない。
「まったく、今日は鍛練って気分になりませんね。あの糞野郎にやられた部分もまだ回復しきってないですし……というか、思い出したらむかついてきました。今度街で見つけたらあとをつけて家を突き止め、闇討ちしてぶちのめしてやります」
相変わらず美涼は物騒だった。
「ふぁぁ、妹子も、昨日の疲れ残ってるよぉ~」
「あたしも……」
妹子も勅使河原もやる気がなさそうだった。
「ごきゅごきゅ……」
唯一水無瀬だけは、涼しい顔をしてドクターペッパーを飲んでいるが。というか、今日何本目だ、それ。
「ま、そういうわけで、先輩。今日は別の手段で先輩の主人公力を上げることにします。これは定番ですからね、グーンと先輩の主人公力はアップしますよ」
「ん、なんだそりゃ? そんなお得なものがあるのか?」
バトルばかりだと疲れるし、俺も昨日の疲れが残ってるし、ほかの手段があるのなら願ってもない。
「ふふ……やっぱり、お風呂イベントは欠かせないでしょう」
お風呂イベントとなっ!? な、なんたることを……! そんなものに連れていかれたら、麻呂の理性が狼藉してしまうでおじゃるじゃないか。あなたが神か。
「学園の近くに日帰り温泉入浴施設があるんですよ。今日はひとっ風呂浴びてから、寮に帰りましょう」
素晴らしい。そんなものが近くにあるとは。……って、考えてみれば、一緒に入浴施設に行っても、普通は男女別浴だからな。俺の期待するラッキースケベイベントは起こらないだろう。
「もちろん、先輩がネットにアップしていた『ぼくのかんがえたさいきょうのらいとのべるのせってい』によって、露天風呂が混浴になっていますよ。そんなところだけラッキースケベが発生しやすい設定を作ってるって、どうしようもないガキですね、当時の先輩は」
「や、やめろ、俺の恥ずかしい過去を暴くなっ……! というか、俺ですら忘れていたぞ、そんな設定……昔の俺、アホすぎだろ」
しかも、そんなもんをネットにアップしているとか狂っていやがる。……いやしかし、昔の俺、グッジョブかもしれない、おかげで、今の俺が楽しむことができるのだからな。やっぱり、えらいぞ中学時代の俺。褒めてつかわす。
「なっ、混浴なのっ!?」
そして、温泉施設に行く気マンマンだったらしい勅使河原が、驚きの声を上げる。ま、勅使河原は常識人だからな。それが普通の反応だろう。
「あんっ☆ おにいちゃんと温泉、楽しみだよぅ~☆」
で、妹子はブレない。やっぱりたいへんよくわかっていらっしゃる。おにいちゃんも妹子と温泉入りたい。俺も妹愛だけはブレない。
「……ごきゅごきゅ……ぷはっ。風呂上がりのドクターペッパーは格別。私も、同志永遠に同行する」
どうやら水無瀬も温泉施設に行くようだ。うん、俺たち友達だもんな。裸の付き合いも大事だよな。うんうん、仕方ないわ、友好を深めるために水無瀬と裸の付き合いするの仕方ない。……べ、別にラッキースケベが楽しみなんじゃないんだからねっ。
「まったく、先輩のアホっぷりだけはブレませんね。脳みそに腐ったイカの塩辛でも入ってるんですか」
下ネタの得点王にだけは言われとうないわっ。
「ど、どうしよ……永遠をひとりにしたら、なにされるかわからないし……で、でも……混浴って……そ、そんなの恥ずかしすぎじゃないっ! ……ブツブツ」
唯一の常識人である勅使河原だけは懊悩していた。むしろ、混浴に抵抗のない女子三名が特殊すぎるんだがな。
「ふふふ……ここで勅使河原凛は脱落ですね。元メインヒロインとかなんとかいって調子に乗って清純ぶって、体を張った芸風を身に着けないから。こんなことになるんですよ。業界舐めてんですか?」
なぜか勝ち誇ったように勅使河原を見下す美涼。どこの業界の誰なんだお前は。
「さ、先輩、さっさと行きましょう。『ドキッ☆ 女だらけの酒池肉林ウッハウハのラッキースケベパラダイス・魅惑のお風呂スペシャル~ポロリもあるよ~』が先輩のことを待っていますよ」
なんだその大昔に絶滅したようなお色気番組みたいなタイトルは。まぁ、ポロリは男の浪漫だからな。そればかりは、文明がいくら発達しようと、地球がさらなる発展を遂げようと、人類普遍の真理だ。
「も、もうっ! 永遠のスケベっ! 変態っ! わ、わ、わかったわよっ! もちろん、あたしも行くわよっ! ええ、行ってやろうじゃないのっ!」
勅使河原はギャンブルにはまって身を滅ぼすタイプな気がしてきた。泥沼にはまっても、なおかつさらに進んで抜け出せなくなる末路というか。こいつの将来は大丈夫だろうか。
「勅使河原……無理しなくてもいいんだぞ?」
つい、俺の口からそんな台詞も出てしまうというものだ。
「べ、別に無理してないしっ! ほら、さっさと行くわよっ!」
勅使河原が顔を真っ赤にしながら、校門に向かって進んでいく。ちなみに、俺たちは昼休みと同じく一度、中庭に集まっていたのだ。
「場所も知らずに真っ先に進むとは、愚かですね。勅使河原凛は。ま、いじりがいがあって面白いんですけど」
「お風呂楽しみだよぉ~☆」
「んくっんくっ……ドクターペッパー風呂があればいいのに」
とにもかくにも、俺たちは日帰り温泉施設へと向かうのだった――。
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