第三章『みんなで混浴露天風呂!~温泉回は外せない~』

ガチシスコン主人公とガチストーカーヒロイン

 今日も、新しい朝が始まる。昨日はみんなとデートしたり、岩山田兄と戦ったり、水無瀬と出会ったり、めまぐるしい一日だった。


「……まぁ、DQNの件は片付いたし、これで当面は平和な生活が送れるのかな。喜ばしいことだ。……ん?」


 そろそろ愛しのお布団たんに別れを告げて起きようと思ったところで――俺は異変に気がついた。


 うん……なんか背中に謎の温もりがあるのだが。しかも、俺のお腹のほうに手が回されているっぽい。


「うにゅう~……おにいちゃぁん……☆ むにゃむにゃ」


 そして、背後から聞こえてくる妹子の寝言。

 なっ……!? こ、これはもしかして……俺、昨夜、ナニかしちまったか!? 

 違うよな、妹は愛でるものであって愛するものじゃないんだから!


 冷や汗を垂らしながら、俺は昨夜の出来事を回想する。


 美涼たちと別れたあとは、俺はひとりで男子寮へと帰った。もちろん、妹子は一緒じゃなかったはずだ。美涼と一緒に帰っていく姿を覚えている。


 で、俺は自室に戻って、着替えて、カバンを机の横に置いた。買ってきたラノベを手に取って、今まで読んでいたシリーズの続きを読めることの感動に打ち震えながら、肌色成分の多い口絵を見て気持ち悪い笑顔でニヤニヤしていた。

 我ながらすごいキモイ笑顔だったと思う。でも、仕方ないじゃないか、こっちの世界で新刊を読めると思わなかったんだから!


 そのあとは疲れていたので、読書は明日から開始することにして、風呂に入ることにした。一応部屋にもシャワーとトイレはあったのだが、激闘のあとだったので、ゆっくりと湯船に浸かりたかったのだ。


 俺はお風呂セット(フェイスタオル・バスタオル・着替え)と歯ブラシセット(歯ブラシ・歯磨き粉・コップ)を手に取って、寮の浴場へ向かった。


 帰りが遅かった関係で、ほかに入っている男子生徒はいなかった。別にホモじゃないので、男の裸が見られなくて残念と思うことはない。


 普通に身体を洗って、湯船につかった。ちなみに、風呂の大きさは二十人ぐらいがいっぺんに入れるぐらい広い。それを独り占めできることに満足を覚えたりした。


 ……まぁ、風呂に入ったのが最後だったと思うので数十人分の男の出汁が滲んでたかもしれんが。そのときの俺は、疲れもあって、たいして気にしていなかった。


 で、そのあとは身体を拭いて髪をかわかして、洗面所で歯を磨いて、部屋に戻ってきた。こっちの世界に来てから変わらない日常だ。


 いつもならそのあと部屋で少し座禅をして魔力を高めてから寝るのだが、昨日は疲れていたのでさっさと布団に入って寝ることにした。


 ちなみに、部屋にはテレビもパソコンもない。寮の談話スペースにはテレビはあった。そのうち、こっちの世界のテレビも見てみるかな。アニメも気になるし。ラノベの新刊が売ってるぐらいだから、普通に現実世界と変わらんのかもしれん。あとは、学園にパソコン室があるみたいだから、あとでネットもやってみるか。美涼みたいに個人パソコンを持ちたいんだが。自分の小説の評判も気になるし、コメントも返さないといけないだろう。


 話が脱線したが、そんなこんなで俺は普通に寝た。そのときに妹子はいなかった。ほかの闖入者もいなかった。もっとも、先日、妹子も美涼も勅使河原も俺の部屋に平然と入ってきていたから、セキュリティはガバガバなんだろうが。


 一応、寮の玄関を上がったところに管理人室みたいなのはあるが、こっちに来てからずっと無人だし、男子寮の扉に鍵もかかってなかったし。途中でトイレに起きたということもなく、俺は朝まで爆睡していた。夢も見なかったと思う。


「んにゅうぅぅ……おにいちゃぁん☆」


 いまだ夢の中にいる妹子は俺に抱きついて全身をこすりつけてくる。

 やはり、俺の作り出した妹キャラは最高だった……。


 まぁ、昨日は死ぬかと思ったからな! これは俺へのご褒美イベントみたいなもんじゃなかろうか! いつも美涼の乱入によって妹子と兄妹愛を育むのを邪魔されているからな。これは……チャンスじゃろ!

 俺はズリズリと身体を回転させていって、妹子のほうに顔を向ける。


「むにゃむにゃ……☆」


 妹子の寝顔はまさしく純真無垢。破壊力抜群だった。こ、これは……もうなんというか、逆に妹であることがもったいないぐらいにかわいい。


「い、いや。これは兄妹愛だから。それ以上ではないし、それ以下でもないし、それ以外でもないから。いわば、布団に猫が入ってきたらモフモフするのと変わらないから」


 俺は次元の彼方に向かって言い訳をしながら、妹子と兄妹愛タイムをエンジョイしようしたのだが――。


 だが、しかし。

 そこで、無慈悲にドアが開け放たれる。

 このタイミングで俺の邪魔をする奴はひとりしかいない。


「さぁ~て、先輩。お仕置きの時間ですよー。人間洗濯機か人間ドリルか人間ロケットのどれがいいか選ぶぐらいの慈悲は私も持ち合わせていますよ?」


 美涼がスマートフォンを片手に、部屋に押し入ってくる。


「ちょ、なんでこんなタイミングで現れるっ!? ……まさか、ハメられたのか!? 謀ったな、美涼!?」

「いかがわしいものをハメようとしてたのは先輩じゃないですかね」

「いやもうそういう下ネタやめようよ!? 俺も冗談だったんだからな!」


 男の俺よりもエゲツナイ下ネタをバンバン使ってくるから困る。

 本当にこいつはネタのためには手段を選ばない恐ろしい女だ。


「先輩の動きをリアルタイムでネット小説に反映できるようにしておいてよかったです。まったく、妹子さんも油断も隙もあったもんじゃないですね。まぁ、計算づくではなく、天然でやっているのがさらに厄介なんですが」


「なっ、そんなことできるのかっ! 俺のプライバシーはどうなる!? それじゃあマジで常に監視状態じゃないか!」


 もうそれ、ある意味で盗聴器とか盗撮とかよりタチが悪くないか!?


「私もいつも覗いているわけじゃないんですけどね。なんとなく、女の勘ってやつですかね。確認しておいてよかったです」


 もうこれ完全に俺は美涼の奴隷ルート直行じゃないか……。ストーカーってレベルじゃない。


「妹子さんと勅使河原凛に加えて、水無瀬氷まで出てきてヒロイン要員が増えましたからね。今日からはさらにグイグイ先輩を落とさせてもらいます。私から逃げようったって無駄ですよ?」


「いや、もっと穏便に、平和的に親交を深めていくってことはできないのか? ゲームとかだって、ガチのストーカーヒロインなんて需要ないだろ!」


「まったく、先輩はモノを知らなさすぎますね。ヤンデレの需要っていのうは、一定の割合あるんですよ? 妹だの幼なじみだのに熱を上げているようでは、まだまだ初級者の域を出ていません」


 いや、美涼は上級者向けすぎだろ……。


「……女心がわからない先輩には、人間洗濯機と人間ドリルと人間ロケットの三つを全部味わってもらいますかね」


 訂正。超上級者向けすぎだろ……。ほんと、俺、この先無事に生きてけるのだろうか……。愛が深すぎて死にそう。


「ま、冗談はさておき、そろそろ起きないと遅刻ですよ。あ、私も今日は寝坊したんで、お昼は学食にでも行きましょう」

「おお、そうか、わかった。それじゃ、そろそろ妹子も起こさないとな」


 やっぱり、みんな昨日の疲れが残っているらしい。そりゃそうだよな。昨日は超激闘だったから。誰も大きな怪我をせずに済んでよかった。


「おい、妹子、起きろ~。朝だぞ~」


 俺は妹子の肩を揺さぶる。いまだに軽く抱きつかれたままなので、キュートな寝顔がすぐ目の前でハートが萌え萌えキュンキュンしそうだ。


「……先輩の頭の中を一度カチ割って見てみたい気もしますね。どういうセンスしてるんですか? なんですか萌え萌えキュンキュンって」


 美涼がスマートフォンを確認しながら、半眼で見つめてくる。


「って、俺の考えていることまで覗くなよ!? 普通に生活しているときは、見ないでお願い恥ずかしいからっ!」


 もはやプライバシーがないとかいう問題じゃない。なんでもかんでもネット小説に反映される魔法というのも考えものだ。


「ま、全部、先輩が文才がないからいけないんですけどね。そもそも物書きなんてのはプライバシーを切り売りしてなんぼですよ。作家業舐めてんですか?」


 なんかもう美涼は俺の担当編集者のような気がしてきた……。色々な意味で美涼には頭が上がらない。


「んにゅ……?」


 と、そのとき――ようやく妹子が起きた。寝ぼけまなこで、こちらを見つめてくる。


「あ、おはよう、妹子。一応言っておくが、ここは俺の部屋で、妹子は寝ぼけて俺の部屋に来て眠ってたみたいだぞ?」


 超絶ブラコン設定の妹子とはいえ、いきなり兄と同衾しているという状態ではパニックになってもおかしくない。


「はにゃっ……? あんっ、そうなんだぁっ☆ えへへへ~っ☆ 驚かせて、ごめんねっ、おにいちゃんっ☆ おかげで、妹子、お兄ちゃんといっぱいイチャイチャする夢見られて幸せだよぅ~☆」


 さすがは俺の作り出した最強の妹。寝起きでも、しっかりとお兄ちゃん愛を爆発させてくれる。やっぱりかわいい。お兄ちゃん爆殺されちゃいそうだ。


「なんか朝からあんみつをクリームてんこ盛りで出されたような気分ですね……。まぁ、ここで騒動を起こしていたら本当に遅刻してしまいますからね。さっさと着替えて、登校しましょう。ほら、妹子さんも」


 毒気が抜けたように、美涼が促す。


「そうだな。ちゃっちゃと学校行くか」

「はーい☆ 妹子、着替えたら外で待ってるねー☆」


 もうなんというか美涼は俺たち兄妹の保護者みたいだった。


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