みんなで回転寿司~世界を司る少女~
で、俺たちは回転寿司にやってきた。五人なので、テーブル席だ。
回転レーン側に、水無瀬と妹子。その隣に、勅使河原と美涼。俺は美涼の隣、つまり、通路側だ。注文用の紙があるから、回っている皿を必ずしも取る必要はない。
「ともかく、まずは炙りサーモンかな」
あれだけ炙りサーモン炙りサーモン連呼されたら、食べたくなるのが人情だ。
全員揃って、まずは炙りサーモンだった。注文も書きやすいというものだ。
まずは俺たちの前に炙りサーモンが並べられる。
うむ……絶妙の焼き加減。やっぱり、炙りサーモンはこうでないと!
「いっただっきまーすっ☆」
妹子は満面の笑みを浮かべて、手を合わせる。やはり、女の子の無邪気な笑顔はいいものだ。回復効果がある。
「うん、うまいな」
俺も炙りサーモンに舌鼓を打つ。こうして死後もおいしい寿司を楽しめるとは思わなかった。
「うんっ、おいしいよぉ☆」
妹子はほっぺたを抑えるような仕草で、幸せオーラを放っていた。
「……美味」
水無瀬も無表情ながらも、満足しているようだ。
「うん、おいしいじゃない、このサーモン」
「……なんで私があんな雑魚にやられなきゃいけないんですかね……ブツブツ」
若干一名、飲んだくれのオヤジみたいにウーロン茶を飲み干しながら、寿司をつまんでいる奴もいるが……。瘴気が漂っている。
……まぁ、やさぐれている美涼は放っておこう。ああいうタイプは絡むと、面倒になる気がする。しばらく放置だ。
今は水無瀬から色々と情報を収集しておくことが大事だろう。サーモンに続いてタコを食べている水無瀬に話しかけることにする。
「水無瀬は、その……この世界のことをどこまで知ってるんだ?」
作り物とは気づいているようだが……それが、俺が作った世界だとわかっているのかどうか。それに、俺が永遠了じゃなくて、美涼によって召喚された糸冬了だということも。
「もきゅもきゅ……すべて、わかっている」
「すべてって……この世界が誰が作ったかとか、俺の正体とかもか?」
「ん……。この世界は、糸冬了が作り出したもの。そして、観月美涼の禁断魔法によって、死後の世界に旅立つはずの糸冬了を、この世界の主人公である永遠了として召喚した。だから、あなたは永遠了であり、糸冬了。そして、今は自分の力をほとんど発揮できていない。……ずずずっ」
そう言って、水無瀬は湯呑を手に取って、緑茶を啜った。
驚くべきほど……わかっている。
「なんで……そこまで知っているんだ?」
ほんと、ここまでくるとすべてお見通しレベルじゃないか。これじゃあ、どっちがこの世界の創造者だかわからない。
「本当にこの世界が作り物だと最初に気がついたのは、私。そして、そのことによって……この世界を司る能力が身についた」
「司る能力?」
「そう。この世界のすべてが見えるようになった。わかるようになった。それとともに、私の力は飛躍的に向上した」
「……まったく、私よりも先にこの世界が作り物だと気がついた人間がいたとは、思いもしませんでしたね。しかも、司る能力って、神かなんかですか、あなたは」
「そう。おそらくは、私はこの世界の神のような存在になったんだと思う。でも……面倒なので、放置していた。ドクターペッパーを飲めさえすれば、それで私はよかったから」
まさか、水無瀬がそこまでの存在だったとは……。まぁ、美涼のような物騒な奴が神にならなくてよかったのかもしれないが。迷うことなく世界を私物化しそうだし。
「今日、私がショッピングモールに来ていたのは、この世界の秩序を乱そうとする者の気配を感じたから。具体的には、岩山田颯太が主人公である糸冬了とヒロインたちを殺そうとしたから」
「そんなこともわかっていたのか。だから、俺たちを助けに来てくれたんだな」
「岩山田颯太もこの世界が作り物だと気づいていた。それをわかった上で不良たちを集めて、世界を自分のものにしていくことを考えていた。だから、私の中では要注意人物リストに入っていた」
「……まったく、なんということなんですかね。私以上の存在がいたとは……」
これで美涼の世界征服の夢も潰(つい)えたようなもんだろう。水無瀬の圧倒的な魔力は、こうして寿司を食っているときでもヒシヒシと感じられる。
ちなみに、妹子はサーモンを食べようとした姿勢のままフリーズしていた。
「……妹子も、この世界の秘密を知って、受け入れるってことはできないのか……?」
水無瀬に訊ねてみる。
「……おそらく、無理だと思う。この子は、この世界が作り物だと信じることができないんだと思う」
勅使河原や美涼は大丈夫でも、妹子はだめとは……。やはり、俺が最も力を入れた妹キャラだったからだろうか。メインヒロインの勅使河原よりも、妹のほうがお気に入りだったからな。
そう考えると、適当に作ったキャラほど世界の秘密に気がつくことができて、強大な力を有するという傾向があるのだろうか?
もともと美涼も水無瀬もモブキャラみたいなものだ。ある意味で、下剋上が起こっているのかもしれない。あと、岩山田兄なんかもか。はっきり言って、そんな奴は存在すら忘れていたしな。
ともかく。水無瀬のおかげで、とりあえずは平和な時間が取り戻せたのは確かだ。DQNに怯えて暮らさずにすむのはありがたい。
その後は、おのおの寿司を食べることに集中した。食事のときにあまり難しいことを考えていても仕方がない。妹子もやがてフリーズ状態から脱して、タマゴとか頼んで無邪気に食べていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます