勅使河原凛&召喚獣VS岩山田颯太
「くっ、今度はあたしが相手よ!」
「妹子も、相手になるよぉっ!」
今度は勅使河原と妹子が構える。
しかし……美涼を簡単に倒すような奴と闘えるのかどうか。
岩山田兄の口元は、依然として嗜虐的に歪んでいる。婦女子を殴って喜ぶとは、とんでもない野郎だ。本当なら、俺がこいつをぶちのめしてやりたいところなのに……女子たちに頼るしかない自分の状態が歯がゆい。
「雷撃無双!」
「え、ええっと、ヒーちゃん、お願いっ!」
勅使河原が雷の魔法を行使し、妹子は両手で魔法陣を描いて召喚獣を呼び出す。ヒーちゃんとは、ヒグマの召喚獣のことだ。
「……無駄だぜぇ……?」
岩山田兄は、初めて口を開いた。低く粘っこい声は嗜虐的な響きに満ちていてゾクリとする。
次の瞬間。勅使河原の雷撃が簡単にかわされて、一挙に間合いを詰めていた。
「っ、このぉ!」
魔法の発動が間に合わないと判断した勅使河原は殴りかかるが、それもかわされる。
「……へへ、へへへっ……!」
「な、なによ、気色悪いっ! 当たれっ、当たれぇっ!」
右上段、左中段、右中段、と次々に繰り出される勅使河原の拳だが、いともたやすくかわされていく。まるで、プロボクサーと一般人が闘っているみたいだ。勅使河原だって、授業で格闘訓練を受けているはずなのに。
「ヒーちゃん!」
「ぐるぉおおおおおおおおっ!」
妹子の召喚した、やたらリアルなヒグマのヒーちゃんが、岩山田の兄に背後から襲いかかる。それでも、
「……ふっ……!」
岩山田の兄は、逆にヒーちゃんの裏に回り込んで、肘を背中に叩き込んでいた。
その強烈な一撃に、ヒーちゃんは公園の路面が凹むぐらいの勢いで叩き付けられる。
「ああ、ヒーちゃんっ!?」
そのまま、ヒーちゃんは消滅していってしまった。つまり、召喚獣がダメージに耐えられずに具現化できなくなってしまったわけだ。こうなると、しばらく呼び出すことはできなくなる。
「くっ、あたし一人で十分よ! くらえぇっ!」
勅使河原が両手を突き出して、魔法を発動しようとする。しかし、
「迅突」
一気に間合いを詰めた岩山田兄によって、美涼同様にボディブローを食らわされる。
「か……はっ……!」
胃液を吐きながら、そのまま勅使河原は崩れ落ちた。
「勅使河原っ!」
咄嗟に名前を呼ぶも、俺にできることなんて、そんなことぐらいだった。
「……ごふっ……な、永遠っ……に、逃げなさい、よっ……げほっ、ごほっ、……こいつ、普通じゃない……」
どうにか意識が残っている勅使河原が、俺に向けて苦しい息の中で促す。
「バカやろうっ、勅使河原と美涼を置いて逃げられるわけないだろっ!」
こんなDQNどもに捕まったら、なにをされるかわかったもんじゃない。それに、俺と妹子で逃げきるのは不可能だろう。
「岩山田さん、お疲れ様っす! あとは俺たちが後始末つけまさぁ!」
「ひひひっ、たっぷりかわいがってやるぜぇ~!」
「俺は男もいけちまうからさぁ、安心しろよなぁ! ぎゃはははっ!」
DQNどもが下卑た笑いを上げながら、近づいてくる。その数、五十以上。
「うぅ、おにーちゃん、怖いよぉ……」
妹子も、すっかり戦意喪失してしまっている。これでは、別の召喚獣を呼ぶというのも難しそうだ。
……くそっ、どうすりゃいいんだ。美涼は完全に失神しているし、勅使河原もダメージが大きくて起き上がれない。俺の力は、どうしようもない。
だが……それでも。やるしかない。
こんなDQNにやられて終わりだなんて、あまりにもひどすぎるだろ。ろくでもない人生なんて、現実だけで十分だ!
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