観月美涼VS岩山田颯太

 二人は距離が十メートルほどのところで立ち止まる。

 そして――、


「疾風迅突」


 岩山田兄――颯太の口がわずかに動いたと思ったら、一挙に美涼との間合いを詰めていた。


「っ!」


 右足を軸にして、後ろに身を引いて半回転する美涼。しかし、颯太の拳がかすったのか、よろける。


「迅突」


 さらに、繰り出される颯太の拳。それは、美涼の顔面に向かって伸びていた。


「くっ……!」


 美涼は自ら背後に倒れると、そのまま受け身を取るように回転して立ち上がり、素早くバックステップを取って距離を取る。

 岩山田兄は、拳を突き出した姿勢のまま、追い打ちをかけてこなかった。


「ふん……なんですか。ここで一気に勝負を決めてこないとは、舐めてんですか」


 軽口を叩く美涼だが、その表情から余裕が消えている。

 思った以上に、強敵らしい。


 どうやら岩山田兄は、自分のスピードをアップさせる異能のようだ。そして、元々ボクシングでもやっていたのか、拳の威力が強い。

 これだけ素早く攻撃されると、風力障壁を展開する余裕はなさそうだ。


「…………」


 岩山田兄は、美涼の言葉に応えることなく無言。再びだらりと体から力を抜いている。傍目から見れば隙だらけに見えるが、罠にも思えるのだが……。


「ふん、舐められたものですね」


 美涼はバックステップを繰り返して、距離を取っていく。それでも岩山田兄は間合いを詰めることをしない。


「舐めてんじゃないですよ……! 竜風招嵐!」


 十分に距離を取った美涼は、岩山田を倒したときと同じ強烈な風の魔法を発動する。今回は邪魔されることなく、魔法を行使できたわけだ。

 となると、一気に美涼が優勢になったはず。


「……」


 しかし、岩山田兄はまったく慌てない。


「その余裕、すぐにぶっ飛ばしてやりますよ! 竜風乱舞!」


 一つでも強力な竜巻が、三つに増える。公園には暴風が吹き荒れて、俺たちも踏ん張っていないと、飛ばされそうだ。というか、DQNがすでに数名飛ばされてる。


 それでも、岩山田兄の表情は変わらない。いや……わずかに口元が歪んだ。

 まるで、笑っているかのように。


「美涼、気をつけろ! そいつ、普通じゃねぇぞ!」


 悪寒を感じて、俺は叫んでいた。


「この攻撃を受けて、立っていられるわけなんてないはずですっ!」


 三つの竜巻は岩山田兄に向っていく。


「疾風迅影」


 岩山田の兄が動いたと思ったら、その姿は見えなくなる。まるで、テレポートでもしたかのように。


「っ!?」


 そして、次の瞬間。岩山田兄は、美涼にボディーブローを食らわせていた。


「な……ぐっ!?」


 驚愕に目を見開く美涼。そして、そのままドサリと前のめりに倒れこんだ。それとともに、竜風が消滅する。


「美涼っ!?」


 まさか、あの竜巻を突っ切ってきたのか? それとも、かわしたのか……?

 まったく、目で追うことができなかった。


「さすが岩山田さんッス!」

「パネェッス!」

「へへへ、これでお前ら全員おしめぇだぜぇ! ヒャッハー!」


 口笛を吹いたりして大騒ぎするDQNども。

 ……くそ、美涼がやられるとは……ま、まずいんじゃないか、これは。


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