本屋&はいぱーおっぱいたいむ

「……とりあえず、本屋にやってきたわけだが……」


 生前、引きこもる前は本屋に行くことが多かった。主に、ラノベやWEB小説の書籍化作品を買うためだ。で、こっちの世界の本屋にはなにが置いてあるんだろうか。


「って、普通にラノベとか売ってるじゃないか! これ、新刊か?」


 なんと……現実世界と同じ品ぞろえだ。死んでも、お気に入りの本の続刊が読めるとはっ! これは、素晴らしい。どういう仕組みか知らないけど、ありがたいぜっ。さすがにこっちじゃアマ●ンなんて使えないだろうし。


 さっそく俺はラノベの棚から目当ての本の最新刊を手に取り、レジに向かう。カバンを持ってきているので、入れる場所に困るということはない。


「先輩、本を読むのはいいですが……引きこもりになるのは勘弁ですよ?」

「だ、大丈夫だっ。たぶん!」


 でも、気をつけないと、こっちの世界でもそうなりそうで怖い。結局、異能の力をほとんど使えないわけだし。これじゃ、現実世界とそんなに変わらないじゃないか。まぁ、現実世界でこんなふうに女の子と一緒に行動したことなんてなかったけど。


「そういや、俺の持ってる金ってどっから出てくるんだろうな」

「先輩、そんなことも忘れたんですか? 学園の生徒には、毎月お金が支給されるんですよ。だから、退学するとなったら、先輩はこちらで自由にできるお金を失うわけです」


 なるほど……そうなると、実技試験を受けないのは最悪の行いじゃないか。次こそは、ちゃんと受けないと。たとえ力が発揮できなくて、ズタボロにされても。


「せめて、少しでも順位を上げたいところだがなぁ……」


 いつまでも三十五位ってのも嫌だ。少しずつでも上がっていかないと、モチベーションが落ちる。


「まぁ、地道にやっていけばいいんじゃないですか? すぐに上がるもんでもないと思いますし」


 俺と美涼が会話している間に、勅使河原はファッション雑誌を、妹子は猫の写真がいっぱいの雑誌を購入していた。


「私も買いますかね」


 美涼もラノベコーナーに行って、「ヤンデレワールド~ヤンデレヒロインによる楽しい世界征服!~」という本を買っていた。俺の知らないタイトルだ。ちょっと、気になる。


「読み終わったら、先輩に貸してあげますよ。やっぱり、世界征服こそ、女のロマンです。女と生まれたからには、パンがないならケーキをお食べ、と庶民に向かって言ってみたいものなのですよ」


 それ、死亡フラグだからっ。ギロチンルートだからっ。そもそも、マリーアントワネットは世界征服してないしっ。それ史実じゃないって話だし!


「先輩にも、もっと大きな志を抱いてほしいところですね。なんかないんですか? 世界中の女を自分のものにするとか、世界中の男を自分のものにして薔薇色の楽園を築くとか」

「そんな志抱きたくないんだが……」


 前者はまだいいとして、後者は特殊すぎだろ……。BLハーレムなんて、誰得だ。俺にそっちの趣味はまったくない。


「先輩はもっと英雄的な思考をすべきですよ、一応は主人公なんですから。古来から、英雄色を好むとも言いますしね」


 もはや逆セクハラな気がする。しかし、まぁ……確かに、ここは俺の作り出した世界。美涼も妹子も勅使河原も、言わば俺のハーレム要員なわけだ。俺さえその気になれば、本当にあんなことやこんなことを楽しめるのかもしれない。


「ま、先輩の正妻の座は譲りませんが」


 こう、ハッキリと言われると、グラッときてしまう。

 あぁ、女の子から好意を持たれることって気持ちいいんだなぁ……。現実世界では一度として味わえなかった感覚だ。これが、リア充か。悪くないぞ、ちくしょう。


「ねぇ、おにーちゃん、イチャイチャしようよ~☆」


 で、妹子は妹子で猫のように俺に体をこすりつけまくって、愛情表現をしてくる。おうおう、かわゆいの~。


「も、もうっ……なんで二人とも、そんなに直接的なのよっ……!」


 俺に対してなにもしてない勅使河原が、いちばん恥ずかしそうに顔を赤くしていた。


「羨ましかったら、自分も先輩にスキンシップを取ればいいじゃないですか。こんなふうに」

「えっ、うぁっ!」


 美涼は体を寄せてきて腕を組んでくる。そして、胸を押しつける。

 お、お、お、おおぉおぉお……慎ましやかだけど、おっぱいはおっぱいである。おっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱい。


 思考がおっぱいで満たされていく! くそぅ、紳士たる俺が、こんな単純なことで心乱されてしまうとは。おっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱい。


「ちょ、ちょっと人前でそういうことするの、や、やめなさいよっ」


 うりうりっと、俺の右腕におっぱいを押しつける美涼と、ゴロゴロと俺の左腕に抱き付いて頬ずりする妹子を、勅使河原は注意する。おっぱいおっぱいおっぱい。


「ふふ、そんなことを言ってる間に、先輩は私たちがおいしくいただいてしまいますよ?」

「も、もうっ……! そ、そんなのは不健全よっ!」


 おっぱい……もはや勅使河原はこの世界の唯一の良心かもしれない。この二人の攻勢に俺は、そろそろ屈してしまいそうだ。おっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱい。


 ……もう自分の力を上げることはやめて、美涼と妹子に養ってもらえばいいかな……なんて、だらしない考えも出てきてしまう。おっぱいおっぱい。


「ほら、永遠っ。あんた、なにデレデレしてんのよっ! あ、あたしのことが好きなんでしょう!?」


 なかなかすごい展開になってきた。そりゃ、本来の設定なら、俺は勅使河原と付き合うことになるはずなのだ。つまり、メインヒロインである。


 モブキャラの美涼が俺にこんなに接近してくるはずはないし、そもそもこんなに異様に強くなっているはずはなかった。そもそもおっぱいを押しつけてくるはずがなかった。おっぱいおっぱい。いや、もうそろそろやめよう、おっぱい。


「ふふん、いつまで過去の設定にこだわっているんですか。勅使河原凛は、もはやメインヒロインじゃないんですよ。私こそが、真のヒロインです!」

「そ、そんなの認めないわよっ! 私がメインヒロインだし、永遠と付き合って、この学園の秩序を守っていくんだからっ!」


 美涼ルートを選べば、ハートフル世界征服ルート。勅使河原を選べば、学園バトルルートか……。


「なんだかよくわからないけど、妹子はおにーちゃんのことだいしゅきだよぉ☆」


 で、妹子を選んだら……、美涼が言うにはヤンデレ化して刺されるルート……。


「もし先輩が誰も選ばなかったら、こっちの世界でもおそらく引きこもりルート突入でしょうね」


 それだけは、嫌だ……。なにが悲しくて、こっちの世界でも人生を無為に過ごさにゃならんのだ。


「ともかく、先輩はもっと恋愛に積極的になるべきですよ。修行しても、すぐにはレベルは上がりませんし。もっと気長にやっていくべきです」


 しかし、誰と付き合っても面倒なことにしかならなさそうなんだがな……。


「まぁ、その話は置いておこう。……次はどこ行くか」


 本屋の前で不毛な争いをして営業妨害するのも忍びない。時間ももったいないし、色々とショッピングモールの店も把握しておきたい。

 また別のところへ移動しよう。

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