UFOキャッチャー無双
「ご飯にはまだ早いですしね。ゲーセンにでも行きましょうか」
「んなもん、ショッピングモールにあるんか?」
「ゲームコーナーというふうにお上品な感じになってますけどね」
「上品というより、子供向けっぽく聞こえるがな」
そんなところに高校生が四人で行くというのもどうだろうか。
「妹子、UFOキャッチャーやりたーい☆」
見た目が小学生の妹子は、心もそのまんまだった。
「んじゃ、行くか……」
ずっとインドア派だったので、外での過ごし方に疎い俺でもある。
……というか、ゲーセンっていうと、いいイメージないんだが……。まぁ、ショッピングモールにあるんじゃ、DQNとかはいないだろう、たぶん。
……で、俺たちはエスカレーターで上の階に昇っていって、おもちゃ売り場の隣にあるゲームコーナーへやってきた。
「私は格ゲーやってきますんで、先輩は幼児用ゲームでもやっててください」
「んなもんやるかっ!」
もはやヒモというか、まんま子ども扱いじゃねーか!
「わーい、かわいいぬいぐるみさんがいっぱいー☆」
……で、そのまんま子どもな妹子は満面の笑みを浮かべてUFOキャッチャーの前に張り付いていた。
ちなみに、俺はUFOキャッチャーは得意ではない。というか、ゲームは家の中でギャルゲーを嗜むぐらいだったので、こういうゲーセンにあるようなものはからっきしだ。まさか、ゲーセンにギャルゲーがあるわけない。むしろ、あったらどんな羞恥プレイだ。
「妹子、がんばるよ~☆」
妹子は百円硬貨を二枚投入して、UFOキャッチャーを開始する。クレーンの下には、クマだのウサギだのペンギンだののぬいぐるみが溢れかえっている。
「うーん……えいっ☆」
妹子はボタンを操作して、クレーンを移動させて降下させる。……空振り。紐がかなり細いから、難易度は高そうだ。
「う~、もう一回っ!」
妹子、再戦。しかし……今度っも同じように虚しく空を切るクレーン。
「あーん、もう一回だよぉ!」
……うん、妹子のやつ、たぶんUFOキャッチャー下手なほうだな。素人の俺が言うのもなんだが。
「……勅使河原はUFOキャッチャーは得意なほうか?」
「えっ? あ、あたし?」
俺の横で妹子の奮戦を眺めている勅使河原に訊ねる。その真剣な目つきからすると、経験がありそうだ。
「ああ、なんとなく得意そうな気がする」
「べ、別に、そんなに得意じゃないわよっ!」
とは言うものの、その目は妹子の操作するクレーンから離れない。で、妹子、またしても失敗。
「あーんっ、取れないよぉ~」
妹子、涙目である。つうか、普通にぬいぐるみみたいな召喚獣を呼び出せるんだから、それでいいんじゃないかって気もしてくるんだが。
「よし、勅使河原。俺が資金提供するから、妹子にぬいぐるみを取ってやってくれ」
「え? あ、あたしが?」
「そうだ。俺もUFOキャッチャーは素人だからな。頼む」
「べ、別にそんなに得意じゃないけど……た、頼まれたら断れないじゃないっ」
そうは言うも、なんとなく嬉しそうだ。隠し切れない、心の高揚感というものが見て取れる。
「よし、妹子。勅使河原が獲ってくれるみたいだから、どれが欲しいか教えるんだ」
「う、うんっ。え、ええと、このクマさんっ」
ツッキーといい、本当にクマが好きだな、妹子は。
「このクマね? うん、確かにちょっと、難しそう……」
ペンギンとネコに挟まれて埋もれている感じだ。こうなると、先にこの二匹が取れないと無理なんじゃないだろうか。
勅使河原も難しい顔をして、ペンギンとネコを見ている。そして、クレーンの形を確認する。
「やっぱり、先にこの二つ取ったほうが確実かな。うん、ここは私もお金出すから」
「いや、いいよ。それも出すぞ。俺が頼んでんだから」
「ううん、私もこのネコ気に入ったから、これは私のお金で獲る」
そう言う勅使河原の瞳には闘志が籠っていた。こいつ……やっぱり、かなりUFOキャッチャーをやってそうだ。
勅使河原は自分の財布を取り出して、硬貨を投入していく。そして、呼吸を整えてから、台の前に陣取る。真剣な眼差しの女の子って、ドキっとするよな。かっこいいし、かわいいし、美しいな。
勅使河原は、真剣な表情でボタンを操作し始める。まずは、横……そして、縦。慎重に行くことなく、見ている分にはかなり大胆に動かした。
続いてクレーンが降下して、やや斜めになっているネコの首根っこをうまい具合に掴んだ。そのまま、クレーンは穴のほうにまで移動して、途中で落っことすことなくネコを穴に投下した。
「……よしっ」
勅使河原が、安堵と達成感の混じったような声で呟く。
あまりの真剣さに、俺と妹子も手に汗握って見つめてしまっていたぐらいだ。
「勅使河原先輩、す、すごいよぉ!」
「うむ、すげぇな、勅使河原!」
妹子の操作する様子を見ていたとはいえ、こうも簡単にぬいぐるみをゲットするとは。
「べっ、別にこんなの普通よ!」
勅使河原は顔を赤くしながら、ネコを回収する。
捕獲されたネコは垂れ目で、ぐだーっとした、やる気のない姿だ。趣味としては、まぁ……あまりいいほうではないかもしれないが、それはまぁ、置いておこう。
ともかく、俺の予想した通り、勅使河原はUFOキャッチャーに熟達している。これなら、順調に獲れそうだ。
「ええと、次はペンギンね。こいつ獲らないと、クマは難しそうだから……」
「よし、勅使河原、頼むぜ」
俺は自分の財布から硬貨を取り出して、投入する。
「あっ、あたしが出すからいいのに」
「いやいや、そんなわけにはいかんだろ。頼んでやってもらってるんだから」
それに、UFOキャッチャーをやっている勅使河原を観察できるのは楽しいし。眼福だし。それは口には出さないけど。
「とにかく、頼むぜ」
「う、うん、わかった。獲ったら、永遠にあげるから」
再び、勅使河原は真剣な表情でUFOキャッチャーの中を見つめる。そして、小さく息を吐いて気持ちを落ち着けると、ボタンを操作し始めた。
ペンギンは斜めに傾いている。操作を誤まれば倒れてしまいそうだ。そうなると、その下のクマを獲るのはかなり難しくなる。
勅使河原は呼吸を止めて、クレーンの動きを誘導していく。まずは、横。素人の俺からすると、やや位置がズレているように見えるが……勅使河原に動揺はない。
再び小さく息を吐き、勅使河原は縦のボタンを操作する。
そして、降下――
クレーンはぬいぐるみには届かないと思ったが――頭のてっぺんから生えているヒモをうまい具合に引っかけた。
上昇したクレーンは、そのままペンギンを宙づりにするようにして……ゆらゆら揺れながらも、投下口に向かっていく。
「わぁ、落ちないで~、ペンギンさんっ!」
妹子が拳を握りしめて、成り行きを見守る。俺も、手に汗握って、クレーンの動きと、勅使河原の表情を見つめる。そして――
「……やったぁ!」
ペンギンは、クレーンからほっぽりだされるようになりながらも、ちゃんと投下口に落ちてくれた。その瞬間、勅使河原の表情はかわいらしい笑顔になる。無邪気で、無垢な。思わず、見とれてしまうぐらいの。
「あっ……うっ……。べ、べ、別にそんなに嬉しくないんだからっ! と、当然よ、これぐらいっ!」
勅使河原は顔を真っ赤にして、慌てて俺から目を逸らす。くそぅ、かわいいやつめ……。こんな表情見せられたら、グラッときちゃうだろっ! やっぱり俺の作り出したメインヒロインだから、かわいいぜ!
「ほら、あんたのペンギン!」
勅使河原は怒ったような顔をしながら、俺にペンギンのぬいぐるみを手渡す。
「さんきゅ。大事にするわ」
「べ、別に感謝されるようなことはしてないわよ!」
そっぽを向く勅使河原。素直じゃないな。
だが、そんなところがいい。
「もうっ、ちゃっちゃとクマ獲るわよっ!」
勅使河原は再びUFOキャッチャーの前に陣取る。
「勅使河原先輩、お願いしますっ☆」
妹子が硬貨を投入する。
「うん、絶対獲るからね」
なんかUFOキャッチャーを通して、勅使河原と妹子の距離が近づいている気がする。まぁ、いいことだな。女の子が仲良いと癒される。百合万歳。
クマはというと、ネコとペンギンがいなくなったおかげで、だいぶ獲りやすそうだ。普通に座っている状態だし。
「これなら、楽勝」
勅使河原の表情にも、余裕が見られる。そのまま迷うことなくボタンを操作していき、言葉通り容易にクマをクレーンで掴んで、穴に投下する。
「わぁ、勅使河原先輩、すごいよぉ☆」
妹子は大喜びである。兄としても、妹の笑顔をを見られると嬉しいもんだ。現実世界でも妹がいて欲しかったものだ。そうすれば、俺の人生も少しはマシなものになっていたかもしれない。……まぁ、現実に妹がいると兄に人権なんてないようなもんらしいが。
ともあれ、クマはゲットできた。
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます、勅使河原先輩っ☆ 一生大事にしますねっ☆ わぁ~い、かわいいよぉ~☆」
勅使河原から渡されたクマを抱きしめる妹子。本当に、幼女レベルの喜び方だが……。そんな無邪気な妹子を見て、勅使河原は満更でもなさそうな顔をしていた。
「あとは……もう一匹捕獲しなきゃ」
「え? なぜに?」
もう当初の目的な果たした気がするのだが。
「観月さんの分も獲らないと不公平でしょ?」
「なるほど……勅使河原は、優しいな」
「べ、別に、そんなんじゃないわよ。私がUFOキャッチャーやりたいだけっ」
そう言って、勅使河原は自分の財布から硬貨を投入してUFOキャッチャーを開始する。あんだけ美涼からライバル視されているのに、いい奴だ。そんなところ見せられたら、ますますグラグラきちゃいそうだ。性格がいいのはポイント高い。
そして、勅使河原は難なく、ウサギをゲットする。
見ている分には簡単に獲っているようだが……今のも絶妙な位置から降下して紐をひっかけている。これは、達人だわ。もしかすると、この停止した世界で勅使河原はUFOキャッチャーをやりこんでいたのかもしれない。
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