ドクターペッパーをこよなく愛する美少女・水無瀬氷

「んじゃ、俺はそこのベンチでドクターペッパー飲んでるわ」

「あ、先輩。勝手に私たちから離れたら危険ですよ」

「大丈夫だろ、ちょっとぐらい」


 俺は先ほどの自販機の前にやってきて、ドクターペッパーを買う。そして、傍らのベンチに座って、飲むことにする。


「くぅーっ! やっぱり、ドクターペッパーはいいなっ! こっちの世界でも、この味は変わらないぜっ!」


 昔から俺はドクターペッパーが大好きだった。それに……元々引きこもりなので、やっぱり一人が落ち着く。女の子三人と常に一緒だなんて、疲れる。


 そんなふうに一服している俺の目の前に、女の子が現れる。サラサラと流れるような水色がかった髪が肩まであり、瞳は碧色、背は妹子ほどではないが、低い。


 外国人だろうか? 肌は白くはないが……。ハーフかなんかか? というか、髪の色が水色って……明らかに、普通じゃない。


 その女の子は自販機にお金を投入して、迷うことなくドクターペッパーを購入する。そして、俺の座っているベンチの隣に、それが最初から決められていたことのように、座る。


 ……えっ? なんだ、この子? なぜ、俺の隣に自然な動きで座る? そもそも……名もなき一般人にしては、容姿とか凝りすぎだと思うが……。


 少女は、ぷしっ……とプルタブを引き起こし、んくっんくっ……と、缶を両手で持ち上げるようにしながら、飲んでいく。その間、ずっと無表情。というか、現れたときから、ずっと表情がない。


「……ふぅ……美味……」


 缶から口を離すと、少女は満足そうに呟いた。ここでようやく少し、無表情が崩れた。そして、再び缶に口をつけて、んくっんくっとドクターペッパーを飲んでいく。


 ……な、なんなんだ、この子は? どうでもいい人物ではなさそうだが、思い出せない。こちらから話しかけるのも、どうかと思う。そもそも、なんて話しかければいいかわからないし。


 ……まぁ、触らぬ神に祟りなしだな。これ以上、面倒事を増やしても仕方ない。美涼とかで精いっぱいだし。そう決めて、俺も自分のドクターペッパーを飲むことに集中した。


 そうこうするうちに、買い物を済ませた美涼たちがやってくる。で、依然として、少女は俺の隣でドクターペッパーを飲んでいる。傍から見れば、どういう状況に映るんだろうか、これは……。


「えっ? 水無瀬さん……?」


 勅使河原が、隣の少女を見て驚いた声を上げる。


 水無瀬? ああ、うちのクラスのランク二位の水無瀬氷かっ! 自分で作り出したキャラなのに、忘れてたわ。そもそも、滅多に学校に来ない設定だったからなぁ……。


 で、なんでその水無瀬がこんなところににいるんだ……? 偶然にしては、出来すぎだと思うんだが。


「……買い物に来た。それだけ……」


 水無瀬はドクターペッパーを飲み干すと、ぽつりと言う。そこに、特別な感情はない。淡々と事実を告げている、という感じだ。

 本当に、たまたま買い物に来て、ここでドクターペッパーを飲んで一休みしていただけなのだろうか。


「怪しいですね。……水無瀬氷も、先輩を狙っているんですか?」

「あなたは……?」 


 水無瀬を知っているらしい美涼だが、向こうは知らないらしい。そりゃ、この二人に接点を持たせた覚えはない。


「冥土の土産に教えてあげましょう。私は、先輩の主人であり、この世界を支配する予定の観月美涼です。私の覇道を邪魔しようというのなら、勅使河原凛ともども冥府の底へ叩き落としてやりますよ?」


 覇道って、お前は曹操かなんかか。俺は王道の劉備派なんだが。というか、いつから俺の主人になった!


「……」


 水無瀬は、じっと美涼のことを見つめ返す。そして、


「……そう……」


 特に興味を持っていないようで、無感情につぶやく。


「なんかやりにくい女ですね……」


 まぁ、美涼のほうがよほど面倒な女だと思うが。


「あたしはお兄ちゃんの妹の永遠妹子だよぉ☆」


 続いて、妹子が自己紹介をするが……。


「……そう……」


 氷は変わらぬ無感情だった。

 な、なんだ……? なんでそんなに感情が死んでいるというか、素っ気ないんだ? 俺が世界を放置しすぎたせいで、感情を失ってしまったとか?


「……私の人生には、ドクターペッパーさえあればいい……」


 水無瀬は立ち上がると、再び自販機に硬貨を投入してドクターペッパーを購入する。そして、再びベンチに座って、プルタブをぷしっと開け……んくっんくっ……と飲み始めた。


 ……このまま水無瀬がドクターペッパーを堪能する様を観察していても仕方ない。とりあえず、移動するか。


「それじゃ、俺たちは行くぞ?」

「……んくっんくっ……」


 水無瀬は俺たちに興味はまったくないようだ。まぁ……美涼のような厄介な人物じゃないだけいいのか?


 なんとも不得要領だが……俺たちは水無瀬に別れを告げて、ショッピングモールの別の場所へ移動することにした。ええと、次は――。


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