パンツ勝負~えたーなる・ぱんつ・わーるど~

 ……で、結局、俺も含めて女性用下着売り場へやってきた。そこには、もちろん視界いっぱいに広がる下着の数々。……ここに入るのは、やっぱり無茶だろっ!


「ほら、先輩、なにあとずさってるんですか。入りますよ」

「ま、待てっ、俺は通報されたくないっ!」

「なにを大げさな。カップルで下着を買いにくる人間だっているんですよ?」


 いや、それはカップルだからギリギリ許されるわけで……女三人(しかも全員美少女)と男一人で下着を買いにくるって、どういう関係だっ。ああ、これがハーレムなのかっ? なんか、全然ハーレムを満喫しているという感じじゃないんだが。


「おにーちゃん、早く入ろうよー☆」

「こ、これは仕方ないことなのよ……永遠がDQNに襲われないために、下着売り場に入ることは、仕方ないことなのよ……ブツブツ」


 積極的な妹子と、一応は葛藤している勅使河原。そして――、


「ほら、先輩。さっさと入りますよ!」


 美涼はなんら躊躇することなく俺の手を引いて、下着売り場に入る!


「う、おぉおおおお……!」


 眩しいっ、純白のパンツが眩しいっ! 目が潰れるっ!

 顔を背けるも、どこを向いても下着である。逃げ場なしだ!


「ほら、先輩。こんな下着はどうですか?」


 そう言って、美涼はピンク色のTバックを手に取って、見せてくる。


「ど、どどど、どうって言われても……」


 そんなこと訊かれても、困るわけだが……。


「先輩の好きな下着、選んでいいんですよ? それを私が履きますから」


 なんか美涼のビッチ化が止まらなくなってる気がするのだが……。


「いちばん手っ取り早いのは既成事実を作ることですからね。そうすれば、先輩と一緒にハートフルな世界征服をできるわけです」


 ……むしろ、俺も征服される側な気がするのだが。


「おにーちゃん、これどう~?」


 で、妹子は妹子で、どう見ても対象年齢一桁向けの女児用下着を持ってくる。股間部分にアニメチックな熊がプリントされたパンツだ。


 前門のTバック、後門の女児用パンツ! なんというか、ベクトルは違うが、どちらも自重していない!


 ……で、勅使河原は……ど、どんなパンツが好みなのだろうか? 美涼と妹子の下着を知ったあとでは、そちらも気になるのが人情である。


 勅使河原のほうをチラ見すると、ごく普通の純白の下着を見ていた。こういう普通の選択をしてくれると安心する。常識人が俺だけだと、辛いものがあるからな。


「まったく、勅使河原凛はつまらない下着を見ていますね。私の勝負パンツの足元にも及びません」

「べ、別にいいでしょ!? そ、そもそも勝負パンツじゃないし!」


 そもそも、勝負パンツはパンツ同士が勝負するものじゃないんだがな……。


「では、ここは先輩に判断してもらいましょう。先輩、私たち三人の選んだパンツ、どれが一番グッときますか?」


 俺に振るなよっ! というか、下着売り場でなんちゅー会話しとんじゃ。


「おにーちゃん! 妹子のが一番だよね☆」


 ……いや、このどう見ても対象年齢一桁の女児用パンツを見てグッときてたら犯罪者予備群だろっ!


「やっぱり、私のTバックの圧勝でしょう」


 しかし、こちらを選ぶのもどうなんだと思う。あからさますぎるというか。あざとすぎるというか。


「ここは……そうだな。消去法で、勅使河原のパンツが一番かな」

「へ? あ、あたし?」

「うむ。やっぱり、オーソドックスなのが一番なんじゃなかろうか」


 シンプルイズベストとも言うし。まぁ、俺が白の下着が好きだというのもある。


「……先輩……。私の下着じゃなくて勅使河原凛のほうを選ぶとは、喧嘩売ってるんですか?」

「おにーちゃん……妹子のこと、嫌いなの? うるうる……」


 美涼からは睨まれ、妹子からは涙目で見つめられる。


「だーっ! 他意はないって! なんとなく気分で選んだだけだからっ!」


 いちいち他の女の子たちのフォローまでしなければいけないのだから、ハーレムも楽じゃない。


「ふん、先輩はまだまだ女を見る目がないですね。こういう清純ぶって白いパンツを履いている女ほど、あとで面倒くさいことになるんですよ」


 いや、美涼のほうが絶対に面倒くさい女だと思うが。もうすでに面倒くさいし。


「なんですか、その疑いの目は。私は、意外と尽くすタイプですよ? 浮気にもおおらかですし」

「……勅使河原に思いっきり対抗心を燃やしている時点で、とても信用できんのだが」

「まだ、一番の座が決まっていませんからね。私が先輩の一番であることが確定すれば、二番以下の女のことは特に気にしません」


「ちょ、ちょっと、あんたみたいな変人に永遠を渡せないわよっ! そ、それに……よからぬこと考えてそうだし」

「常識ほどつまらないものはありません。そして、この世界にとって平凡は罪です。創作世界が退屈でどうするんですか? この世界は、言わば、先輩がはっちゃけるために作られた舞台なのですから」


 むしろ、美涼がはっちゃけすぎだろっ! という気もする。そもそも、生前の意識が残っているので、どうしても俺は常識に囚われてしまうところがある。


 しかし、このままじゃいっこうに主人公力とやらは上がらないのかもしれない。脇役どころか、引きこもり人生だったわけで……いきなり発想や行動を飛躍させるのは難しい。


 なんか、このまま女の子たちのヒモみたいな存在でいいかなって気もしてくる。だって、三人とも超強いんだもん。すぐに追いつけるレベルじゃないし。


「ふふ……先輩は私の奴隷となって、私が無双し、私が世界征服するさまを傍で見ていればいいんですよ」


 やっぱり、美涼はどう見ても悪役みたいなんだが……。


「そ、そんなことさせないわよっ! 永遠には更生してもらって、ちゃんとした学園生活を送ってもらうんだからっ!」

「まったく、発想が凡人のそれですね。ちゃんとした学園生活のどこが面白いっていうんですか。世界を自分の思い通りにしてこそ、物語は面白いわけです」

「で、でも……そんなの、悪役みたいじゃないっ。そ、そんなの……していいわけないでしょ?」


 それは同感だ。やっぱり、勅使河原と俺の思考はよく似ている。


「だから、この物語は止まってしまったわけじゃないですか。常識というものに囚われてしまったがゆえに、自分で自分の小説がつまらなくなって、更新停止(エターナル)状態になってしまったわけです」


 ぐっ……。痛いところを突いてくる。そう言われると、そうかもしれない。まさか、死んでから途中で放り投げた小説のだめな点について指摘されるとは。


「そう言うわけで、もっと先輩ははっちゃけるべきです。さあ、先輩。私と一緒に、この世界を征服し、支配し、搾取して、やりたい放題やりましょう」

「なんだかよくわからないけど、妹子はおにーちゃんの進む道についていくよ~☆」

「ちょ、ちょっと! そんなのダメに決まってるでしょ!?」


 ほんと、困ったものだぜ……。まさか美涼の言う通りに魔王みたいな生き方するってのもアレだし、現状、力がない状態なので、正義を貫き通すということもできない。


 まさに、無力。現実世界と変わらないじゃないか。


「ともかく……この場にずっといるのは目に毒だ。さっさと買って、他の場所に行こう」


 ずっと視界に下着が入り続けているのは勘弁願いたい。


「仕方ありませんね。それでは、ちゃっちゃと買って、移動しましょう」


 三人はレジに並ぶ。先客が四人ほどいるので、少し待つみたいだ。

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