第二章『フリーダムなデートとバトル!』

初めての日曜日~ヒロインズとお出かけ~

 こちらの世界に来てから、初めての日曜日。


「というわけで、先輩デートしましょう」

「ちょっとぉ! 永遠とはあたしがデートするの!」

「妹子もお兄ちゃんとお出かけしたいな☆」


 ……どうしてこうなった。あの、修行は……? 俺の部屋に入ってくるなり三者三様に迫ってくる女の子三人を持て余す。


「先輩の主人公力を上げるのは、なにも戦闘力を強化するだけではありません。ヒロインとのデートイベントをこなすことでも、主人公力が上がるんですよ」


 そんなものなのか? まぁ、修行するよりは遥かに楽なので、それで俺の主人公力が上がるのなら願ってもないことだが。


「だから、メインヒロインはあたしでしょ!?」

「そんな設定は無効です。これからは私と先輩によるハートフルな世界征服の物語が始まるのです」

「よくわからないけど、妹子はお兄ちゃんのことが、だぁーいしゅきっ☆」


 ともかく、部屋の中で争っていても仕方ない。とっとと出かけることにしよう。


「んじゃ、とにかくみんなで出かけようぜ……これじゃ、埒があかないからな」


 正直、この三人と一緒に行動することに無理がある気はするのだが……。まぁ、でも誰かを選ぶことなんてしたら、それこそ血で血を洗う争いになりかねない。


「ともかく、ショッピングモールにでも行くか」

「無難でつまらない選択肢ですね」

「仕方ねーだろ。ほかに行くところも浮かばないし」


 基本的に、俺が生前に行ったり見たりしたものがこの世界に投影されている。なので、ごく普通の庶民であった俺の発想の及ぶものといえば、そんなものだった。


 先日地元の駅前でDQNとひと悶着あったので、わざと隣駅まで歩くことにする。まぁ、勅使河原に美涼に妹子がいる最強メンバーなので、もしDQNが集団で仕返しにこようとも、大丈夫だろう。


 うん……そうだな、いざとなったら、三人に守ってもらおう。そんな主人公らしからぬことを考えながら、電車とバスを乗り継いで、地域最大級の大型ショッピングモールへやってきた。


「んーと、どこいくか……」


 来たものの、当てがあるわけではない。そもそも、女の子とこうして出かけるのは初めての経験だった。


「とりあえず、下着売り場に行きましょうか」

「なんでそうなる!? とりあえずで行く場所じゃないだろっ!?」

「童貞の先輩にはわからないでしょうが、乙女の下着消費率はハンパないんですよ?」

「そ、そうなのか……?」 


 ど、どういうことだろう。そんなことを言われると、妄想が広がりまくってしまうじゃないか。


「ちょ、ちょっと、なんていう話してんのよ!」


 勅使河原が、顔を赤くしながら抗議する。しかし、


「妹子も下着買いたいな☆ ねぇ、おにーちゃんはどういう下着がい~い?」


 美涼同様、妹子もまったく自重しなかった。さすが俺の作り出した最強の妹だけある。


「いやまぁ、訊かれても種類とかわからないんだが……」

「そんな先輩のために実物を見ながら、選びましょう。さ、こちらです」


「って、本当に行くの?」「って、本当に行くんかいっ!」


 俺と勅使河原がシンクロした。まぁ、俺も勅使河原もわりとこの世界では割と常識人だからな。美涼と妹子はいろいろとはっちゃけすぎている。


「なにふたりしてシンクロしてるんですか。むかつきますね。ほら、先輩。そんな偽善めいたことを言ってないで、男の欲望に忠実になりましょう。そこの清純ブリっこ女は、置いてさっさと下着売り場に行きましょう」


「な、なによっ! 別に清純ぶってるわけじゃないけど……お、おかしいでしょ? 男の子と一緒に下着を買うなんて」


 勅使河原の言っていることは、なにも間違っていない。とっても正論だ。


 しかし……まぁ、色々と気にしても仕方ないのかもしれない。どうせ、俺、死んでる身だし。ここは、現実世界じゃないんだし。いわば、夢の中みたいなものじゃないか。


 ならば……欲望に忠実になって、やりたい放題やればいいんじゃないか? それこそが、美涼の言っていた「主人公らしい振る舞い」かもしれない。


 現実世界で身についた脇役思考というか、一般人思考はなかなか抜けきるものじゃないが……そうだ。好き放題やりたいことをやってこそ、主人公なんじゃないか? 英雄、色を好むとか言うし。


「よーし、おっけー! そんじゃ、妹子の下着、選んでやるぞー♪」


 俺は欲望に忠実に妹とイチャイチャすることにした!


「あんっ☆ おにーちゃん、目がエッチだよぉ☆」

「ぐふふ、よいではないか、よいではないかぁ~♪」

「……じーっ」


 美涼から、ジト目で見つめられる。そして、


「……な、永遠、あんた、そこまでの変態だったの……?」


 勅使河原はかなりドン引きした様子だった。

 …………結論。俺の作り出した世界でも、やっぱり、世間の目は冷たかった。


 くそっ、俺は空想世界においても常識という束縛から逃れることはできないのかっ。まぁ、今のは調子に乗りすぎた。あまりにも妹子が自重しないから、釣られてしまった。


「……と、冗談はさておき、行くなら三人で行ってくればいいんじゃないか。俺はそこのベンチでドクターペッパーでも飲んでるわ」


 ちゃんと空想世界でも自販機はあるし、ドクターペッパーが売っているから素晴らしい。さすがマイワールド。


「いえ、先輩にもちゃんとついてきてもらいます。DQNの仲間がショッピングモールにいないとも限りませんし。先輩が誘拐されたら、色々と面倒です」

「あー、その可能性もあるのか……」


 DQNと関わると、本当に面倒だな……。


 先日駅前で襲われたことは、一応美涼にも話しておいたのだ。ヒロインに守ってもらうしかない主人公ってのも、情けない限りだが……俺が永遠了の力を発揮できるようになるまでの辛抱だ。


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