好感度MAXヒロインズ

「やっぱり…………二人とも、気づいてるんだ」


 しかし、俺を待っていたのは予想外の言葉だった。それは、美涼にとっても予想外のものだったのだろう。余裕の表情が消え失せた。


「気づいているって……なにがです?」


 険しい顔で、美涼は勅使河原に訊ねる。もはや、ほとんど尋問するような口調と表情になっていた。


「この世界が作りものってこと。あたしも含めて」


 勅使河原から出たその言葉に、空気が凍りついた。


 というか、妹子については文字通りフリーズした。瞳が虚ろになって、真実を理解することを拒否する状態になっている。


「……」


 美涼は黙って、勅使河原のことを見つめる。そして、小さくため息をついた。


「……まさか、私以外にも知っているキャラがいたんですね。しかも、よりにもよって勅使河原凜とは」

「やっぱり、フリーズしないんだ?」


「ええ。……勅使河原凜は、いつこの世界が作り物だと気づいたんですか?」

「あたしは……一年ぐらい前。おかしい人扱いされるのを覚悟で、何人か知り合いの子に話してみたんだけど……やっぱりパソコンの画面みたいにフリーズしちゃった。だから、やっぱりおかしいなって……。で、気がつくと毎日同じ日常をこなしてたんだよね、あたしたち……」


「それでも、先輩は渡しませんけどね。勅使河原凜はそこらの男子でも捕まえて適当に青春を謳歌してください」

「う、ううん! そんなの無理なんだから! だ、だって……その、あたし……この世界が作り物だって気づいても、永遠のことが好きなんだもん!」


 勅使河原は顔を赤くしながら、とんでもない告白をしてきた。これは……俺が好きという設定が生きているのか!?


「それは、そういう設定だったからです。勅使河原凜自身の気持ちではないはずです。この世界が作り物だって気がついたのならば、先輩が好きだなんていう、偽物の感情なんて捨てたほうがいいですよ?」

「ち、違うもん! やっぱり、あたし、永遠のことが好きだもん!」


「頑固ですね。こんな駄目人間の先輩のどこがいいんですか?」

「そ……それは、顔とか。私の好きな造形だし」


 造形で選ぶって……。フィギュアかなんかか俺は。


「まぁ、先輩の顔はそこそこなのは認めますが……そんなもので判断するとはとんだアバズレ女ですね、勅使河原凛は」

「そ、それだけじゃないわよ! やっぱり、この世界を作った永遠に興味があるし、なにより、私のことを好きって思って作ってくれたんだから……やっぱり、気になるじゃない」


「ですから、それは偽物の感情なんです」

「違うもん!」


 二人は言い合いをしながら、睨み合う。

 ……なんていう展開になったんだ。俺をめぐって二人が争うとは……。


「……はれ?」


 そこで、妹子がフリーズ状態から戻ってきた。瞳に光が戻ってくる。


「……よくわからないけど、妹子はお兄ちゃんのこと大好きだからっ☆」


 そして、俺に抱きついてきた! うわあ、ますます話がややこしくなるっ。


「ちょ、ちょっと離れてよ! あたしが永遠と付き合うんだから!」

「妹風情が先輩と私の恋路の邪魔をするなんて百年早いです。さあ、離れてください」

「えへへ~、お兄ちゃん大好きー☆」


 まったく、妹子は聞いていなかった。下着姿で密着されると、さすがに刺激が強すぎる。はぁはぁ……さすがは俺の作り出した最強の妹キャラだぜ……。


「もうっ! ともかく永遠にはあたしと付き合うの! 私のことが好きなんでしょ!?」


「さあ、先輩。勅使河原凜や妹のことなんかは放っておいて、私と一緒にこの世界を支配しましょう」


 どれを選んでもろくなルートに行かない気がするのだが……。


 まいったな。どうすればいいんだ? 自分の書いていた小説なのに、どうすりゃいいかまったくわからない。


 ならば、俺の答えは一つだろう。


「保留だ。時間はありあまるほどにありそうだしな。せめて俺が本来の力を発揮できるようになるまで、待ってくれ」


「なら、永遠っ! あたしが訓練つけたげる! 一緒に練習しよ?」

「先輩は勅使河原凜なんかよりも私と一緒に鍛錬をするべきです。そもそも先輩の戦闘訓練を最初に引き受けたのは私ですよ?」

「妹子もお兄ちゃんと色々な訓練するー☆」


 まぁ、ここは、そうだな……。


「……わかった。なら、全員で俺の修行を手伝ってくれ」


 なんつうか妥協策ではあるが……まぁ、全員と付き合うってわけにもいかんだろうからな。まずは、訓練だ。それを通じて、俺が本当に好きなのは誰かをハッキリさせるべきだろう。


 だって、まだこの世界に来て二日目なんだから。相性って大事だしな、うんうん。

 ともかくも、この場はそれで収まった。修行については、また明日から三人でつけてくれることになった。


 さすがに今日はDQNから逃げたり電撃をくらったりイカ野郎呼ばわりされたりで疲労が溜まりすぎている。それに、すぐに強くなれそうな気配ないし。


 ……ほんと、いつになったらチート無双できるんだろう……。

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