ラッキースケベは社会的生命のピンチ
……で、とにかく俺たちは無事に寮へ戻ってきた。電撃で痺れた体で走るのは大変だったのだが。
とりあえず、一旦着替えてシャワーを浴びてから、俺の部屋で勅使河原に事情を話すことになった。
「ぜぇはぁ……いつつ」
汗だくな上に、DQNに殴られた顔も痛い。まったく、酷い目にあったぜ……。
まぁともかくシャワーを浴びよう――そう思って、浴室のドアを開けた、ら……、
「きゃんっ、お兄ちゃんっ!?」
そこには、服を脱いでいる妹子の姿があった。
スカートは下ろされており、パンツは丸見えだ。もちろん、純白! 素晴らしい! ……で、ブラジャーもつけていないツルぺタ体型なので、胸は平坦だが、これまた白い肌着が、でらグッド! ……って、なにマジマジと見てるんだ、俺はっ!
だが、しかし、ここは俺の世界。現実世界と違って、俺のやりたい放題だ。しかも、妹子は俺が作り出した理想の存在だからな。俺に対しては絶対的な好意を抱いている。つまり、絶対に嫌われることはない。
なんで俺の部屋のシャワーを使っているのかはわからないが、これはチャンスだ。ここは思うさま、ラッキースケベを楽しもうじゃないか!
「あんっ、妹子、恥ずかしいけど……お兄ちゃんになら、見られてもいいかもっ☆」
妹子は顔を赤らめながら、もじもじしている。
さすが俺の作り出した最強の妹キャラだ。たいへんよくわかっていらっしゃる。
やっぱりいいな、なにをしても嫌われない、許されるってのは! これこそ、主人公の特権だろう。
さあ、ここは妹子とイチャイチャタイムでも楽しむか。電撃と暴力で痛めつけられた心を癒さないと。
「おお、よしよし妹子、お兄ちゃんとイチャイチャしようね~」
「……そうはイカの姿焼きです」
俺が妹子とのハイパーシスコンタイムに興じようとした途端、背後に誰かが忍び寄っていた。この邪気は、間違いない。
「な、なんの用でございましょうか、美涼様……」
俺は壊れた機械人形のようにガクガクと首を動かして、振り返る。
そこにはやはり、美涼の姿があった。強烈な殺意を放っていらっしゃる。ドス黒いオーラが立ち昇っていて、伝説の魔王もかくやと思われるほどだった。
「なんの用? そんなもの決まってるじゃないですか。重度のシスコンである変態の先輩を監視及び制裁するためです」
……くっ、くそっ。俺が作った世界なのに、俺の思い通りにならないなんて!
しかも、制裁つきってどういうことだ!
「マ、マテ! 俺は別にヤマシイことをしようとしていたわけじゃない! 純粋に妹子と楽しいことをしようとしていただけだ!」
「脳味噌の代わりにイカでも入っていそうな先輩の考えていることなんて、決まりきっているじゃないですか。今さら言い訳は見苦しいですよ?」
くそぅ、酷い言われようだ。
「ほえ? お兄ちゃんの頭の中イカが入ってるの?」
「違う。俺の脳みそはイカじゃない!」
「もう今日から先輩のことはイカ野郎と呼ぶことにしましょうか」
「いや、マジで勘弁してください……!」
……そんな益体もないイカ問答をしているときだった。
「永遠、来たわよー!」
ガチャリとドアが開いて、勅使河原が入ってきた。
お前、部屋に入るときはノックをするって教わらなかったのかっ!? しかも、なんでこんなタイミングで来やがるっ!
「ここはチャンスですね。いっそ私も脱いでしまって、ここで先輩が私たちと一緒に楽しんでいたということにすれば勅使河原凜も先輩に幻滅して、近づかなくなるんじゃないでしょうか? 無論、先輩はクラスメイトはおろか学校の女子全員から生ゴミを見る目で見られるようになって、残りの学校生活を送ることになりますが」
「や、やめろっ、てか、早くも脱ごうとするなぁあっ!」
やばい。こいつは目的のために手段を選ばない恐ろしい女だ。言葉だけじゃなくて、即、実行してるし。
「永遠ー? あ、そっちにいるの?」
だから勅使河原お前も勝手に人の部屋にズカズカ入ってくるんじゃない!
うああ、マジでピンチだ。どうする? どうすりゃいいんだ、この状況はっ!?
「さあ、先輩、どうしたんですか? 楽しいことをするんじゃなかったんですか?」
すっかり下着姿になった美涼は、俺のことを勝ち誇った表情で見てくる。
くっ、こいつ、意外とスタイルいいんだな……。って、そんなことに感心している場合じゃない。
「あ、永遠。ここにいるの? 入るわよ」
いや、だから勅使河原お前も、人の部屋に勝手に入った挙句に当たり前のように浴室のドアまで開けるなよっ!?
しかし、もう扉は開かれてしまった……もう二度とは戻れない修羅への入口が開かれてしまったのだ。
「……え?」
当然、下着姿の女子二人に囲まれる俺を見て、勅使河原の目は驚きに見開かれる。
って、なぜか美涼からは抱きつかれてるし。マジでこいつは俺の社会的生命を断ちにきやがった!
「ふ、来ましたね、薄汚れた泥棒猫。しかし、見ての通り。私と先輩はステディな関係であるわけです。そういうわけで、さっさと泣きながら部屋を出て行って先輩がイカ野郎ということを校内中に言いふらしてもオーケーです」
「ぜんっぜんオーケーじゃねぇ! ってか、こいつの言ってることは出鱈目だからな勅使河原っ! 俺は無実で潔白で童貞だから!」
ああ、もう。興奮していらんことまで口走ってしまったじゃねぇか。まぁいいどうせ俺は童貞だ!
「そして、実の妹に手を出そうとする変態ということも付け加えねばいけませんね」
「んー……妹子よくわからないけど、お兄ちゃんのこと、だぁ~い好きっ☆」
そして、まったく空気を読むことを知らない妹子は俺に下着姿で抱きついてくる。
うん……これでまぁ、俺の立場はこの上なく悪くなったわけだが……。
「……永遠、あんた、本当にそんな変態だったの……?」
いやまぁ、それ以前に勝手に部屋に上がってくるお前の常識のなさとかどうなんだと言いたいところではあるが……もう無理か。
とにかく、ここは誤魔化しきるしかない。
「違う。違うんだ。俺は清く正しく美しく童貞だし、年齢イコール彼女なし暦童貞だから。これは、偶然が重なってできた極めて稀な状況であって、やましいことは一切ない!」
「ひどいです。先輩は私達との関係をなかったことにしようとしてるんですね。あんなに激しく愛し合ったのに」
「よくわからないけど、妹子はお兄ちゃんだぁ~い好きっ☆」
ぐあああっ、マジでこいつら俺を社会的に抹殺する気だっ!
こっちの世界に来ても俺は高校中退引きこもりルートに直行せねばならんのか!? 自分の作り出した世界なのに引きこもり心臓麻痺エンドとか理不尽すぎだろっ!?
「中途半端に現代学園設定にするから、ハーレムやりにくいんですよ。そこが先輩の……、いえ、糸冬了の誤算でしたね。法律舐めてんですか?」
「く、くそぅ、異世界ファンタジーものにするべきだった……」
もう俺は敗北感のあまり打ちひしがれるしかなかった。
ああ、これで退学処分か。そして、美涼がチート無双する物語に変わってしまうのか。で、俺は美涼に奴隷扱いされながら一生を過ごす、と――。
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