筋書を変える後輩女子

 翌日の教室。昨日、全裸で校庭で折り重なっていた岩山田と取り巻きたちは欠席していた。てっきり復讐されるかと思ってビクビクしていたのだが。


 肉体的にも精神的にもそれなりのダメージを負ったのだろう。しばらく大人しくしていてくれたほうが助かる。


 で、昼休み――。


「ねえ、あんた岩山田たちがなんで休んだか知ってる?」


 勅使河原が俺の席にやってきて、訊ねてくる。俺が以前書いた小説の通りなら「俺が倒した」と言うところだったのだが、実際に倒したのは美涼だ。


「あー、知ってるというか、知らないというか……」


 なんて答えればいいのやら。事実をそのまま言ってしまったほうがいいんだろうか。美涼から口止めはされなかったが。


「……あんたが岩山田の取り巻きたちに体育館裏に連れ込まれるのを見たっていう生徒がいるのよね? もしかして、あんたがやったの?」


 本来はここでイエスだった。しかし、もうこの世界のストーリーには大きなズレが生じ始めている。


「おにーちゃん、迎えに来たよー!」


 と、その時。屋上で待っているはずの妹子が教室に入ってきた。今日も一緒に昼ご飯を食べる約束だったのだ。


「早くしてください、先輩」


 そして、美涼まで一緒だった。


「あ、あなたたちは……?」


 勅使河原は俺のところへやってきた二人を見て、困惑の表情を浮かべる。そう。勅使河原はこの二人に会うのは初めてだ。


「ああ、紹介しておくわ。ちっちゃいのが俺の妹の永遠妹子で、なに考えているかわからない無表情なのが観月美涼、妹子の友達だ」


「あっ、初めまして。永遠妹子って言いますっ! いつも、お兄ちゃんがご迷惑をかけてます……」

「どうも、美月美涼です。このドスケベ変態野郎先輩がちょっかいを出してきたら、いつでも言ってください。私が穏便にこの世界から抹殺しますから」


「あ……う、うん。よ、よろしく……」


 妹子はともかく、美涼は初対面でする挨拶の言葉ではないだろう……。勅使河原も引いているし。


「誰がドスケベ変態野郎だ。俺は品行方正だぞ?」

「学校を休みまくってた人間の言葉とは思えませんが」


「いや、それはそれとしてだ。俺は別に、勅使河原にちょっかいなんて出したことないんだが……」

「これからちょっかいを出そうとしてたんじゃないですか?」

「……そ、そんなわけあるかっ!」


 もともとの小説通りなら、岩山田を倒した俺に勅使河原が興味を持つはずだった。そして、その実力を見せるために俺たちは闘って、もちろん俺が勝って……勅使河原は俺のことを見直すとともに、好きになっていくはずだったのだが――。


「さ、先輩。さっさと屋上に行って、お昼を食べましょう」

「な、なんでわざわざ教室まで迎えに来る必要が……」

「それは屋上で話しましょう。それでは、さっさと行きますよ先輩」


 結局、俺は美涼に強引に連れられて、屋上へ向かうことになってしまった。事態を飲みこめてない勅使河原は目をパチパチさせるばかりだった。


 やっぱり美涼は、この物語の筋書きを変えようとしているよな。この乱入によって、勅使河原と親密度を上げる機会が失われたわけだから。その狙いは、なんだ……? 謎は深まるばかりだった。


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