終章 いつかまた、この小さな庭で⑰ 卒業 後編

「……ちゅっ」


 卒業式の日。

 春の桜並木で、香織子かおるこ先生からリズさんへの、卒業祝いは。


「んく!? ちゅぷっ♪ んんっ♪ ふぅっ……♪」


「るぷっ。ちゅ……ん。ふ……、ちゅ♪」


 たどたどしくも舌を絡める、熱い百合キスでした。

 香織子先生、唇を離して、唾液の銀糸を垂らしながら。

 初々しく羞じらう。


「ぷは……っ。だ、ダメよ、これ以上舌を挿れちゃ。教師と、生徒ですもの」


「キスしてる時点でアウトだと思うよお姉ちゃん!」


 香織子先生の実妹でもある後條ごじょうるん、赤くなってツッコんだ。

 リズはといえば、きゃっ♪と頬を赤らめながら。


「ふふ、嬉しいですけど♪ 急にどうしましたの、先生?」


 腕を組んで、照れ隠しにそっぽを向く女教師。ツンデレ。


「ほ、ほら、首席卒業生に、一つくらいご褒美あげないとでしょ?」


 リズさん首席なのである。


「それに……ほら。もう、お別れですもの。貴女、明日か明後日には、英国へ立つのでしょう?」


 ざぁっと、桜色の風が吹いた。

 るんが、ぷくーと頬を膨らませる。


「今さら寂しがってキスするならさー、リズさんを寮に戻せば良かったのに! そうすれば私、おっぱい揉み放題だったんだよ?」


 妹の変態発言にも動じず香織子先生、


「あら、何度も、戻って来なさいって言ったのよ? 私」


「はい♪ 実は誘われてました♪」


 金髪縦ロールと巨乳を揺らして、リズも微笑む。


「ええー!? 聞いてないよそれ!? 毎日お店に通った私の苦労はいったい……」


 リズさんの胸に顔を埋めに「リトル・ガーデン」へ通った日々を、るんちゃん思い出す……。

 リズ、目を閉じて、


「ごめんなさいね。でも私は、あのお店が……『リトル・ガーデン』が大好きになっちゃったから。百合キスが好きで、百合キスができるあの場所が、大切な居場所になってしまったから」


 百合キスという神聖な行為に夢中になってしまったリズなので、指を組むお祈りみたいなポーズで笑う彼女は、とても桜が似合う清らかさなのである。……清らか乙女ですよ?


「むー許せない! 罰としておっぱい揉んでやるっ。えいっ!!」


「ふにゃぁぁん♪」


 怒ったるんに巨乳を揉まれて変な声出すリズだけど、清らかな光景。

 えっちじゃないです。


「はぁ……はぁ……♪ 最後だもんね、どんなにむにゅむにゅしてもセーフだよね♪ ね、リズさんっ♪」


「やぁん♪ 最後って言えば何でも許されると思ってるー!?」


 ※ ※ ※


 ……そして。

 こんな後條姉妹とも、お別れの時間。


「……ちゅっ♪」


 軽く口づけして、るんは顔を離した。


「も、もういいんですか?」


 まだまだ百合キスし足りないリズだけど、桜の舞う中、るんは手を振って。


「ん、やめとく。まだまだ、リズさんとキスしたい子が待ってるでしょ。お店でね」


 くるっと背中を向けて、


「……私は、これでお別れにしとく。泣いちゃうし、さ」


 名残を振り払うように、足早に去ろうとする彼女へ、姉の香織子先生、くすりと微笑み……リズへ頭を下げた。


 そして、桜の向こうへ去っていく姉妹へ。

 リズは、笑顔で叫んだ。


「……私、また日本に帰ってきますから。その時は、いっぱい胸触って、いいですからね!」


 振り返らないまま、るんは。

 楽しみにしとく、と残して、去っていった。


 その後ろ姿を見送って、リズも。

 春の薫りの空気を、胸いっぱいに吸い込んで。


「……私も、帰ろう。あの、小さな庭へ」


 ※ ※ ※


 帰り道、街角を歩きながら姉妹の語らい。


「大学入ったら、アルバイトもしたいでしょ。あのお店でも、お姉ちゃん文句言わないわよ」


 努めて優しく、妹へ語り掛ける香織子先生。

 るんはと言えば……。


「ぶぇぇぇ、リズさんのいないお店なんてー!!」


 ボロボロ泣いていた。


「この子は、もう……。わ、私の胸で良ければ、慰めてあげるわよ?」


「お姉ちゃんのおっぱいじゃ、柔らかさが足りないのー!」


「こ、この子は、本当にっ……!」


 しかたなく、胸を触らせる替わりに手を繋いで。

 姉妹はリズとの思い出を語らいながら、歩いていく。


 それぞれの場所へ。それぞれの、道へ。

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