バレンタイン編 終 百合キスは、好きですか

 2月14日、聖バレンタインデーの営業も終わり、閉店後の「リトル・ガーデン」。

 ちょうど日曜日ということもあって、朝から晩までお店で百合キスしてた由理ゆーりが……なんだか打ちひしがれてる。


「今日1日、キスしかしてないよ……! 私、なにやってるんだろ?」


 女の子とキス、女の子とチュウ、女の子と接吻。

 ひたすら唾液交換をじゅぷじゅぷしてた、そんな17歳のバレンタイン。


「こ、こんな変態みたいな。乙女として、いいのか……」


 一生に一度の、高校2年のバレンタインデー。

 もっとロマンティックな想い出とか……ねえ?

 そう自問して、落ち込む由理だけど。


 季紗きさが、肩を叩いた。


「何を言ってるの、由理。本命百合キスは、これからだよ?」


 見れば、チョコを手に、照れ照れと頬を染める季紗の笑顔。

 ロングヘアーが可憐な清純お嬢様メイドが、乙女の羞じらいですごく可愛い。


 赤毛のツインテールなロリメイド美緒奈みおなに、金髪縦ロールメイドのリズも、それぞれ本命チョコを手にしてる。


「まだ日付変わってないかんね。美緒奈様のキスでメロメロにしてやっから、感謝しろよな♪」


「ふふ、私たちメイドさん同士で、いっぱい口移ししましょうね?」


「ま、まだするの……!?」


 理性が飛んじゃう!

 驚く由理だけど、いつもの4人だけでなく、非常勤の子も含んで百合メイド勢ぞろいで。


「当たり前ですよ先輩! 今年のバレンタインは今日だけだし!」


 代表して、栗色ショートの宮野りりなに、黒髪ロングの早乙女早百合がにっこり。


「ふふ、バレンタインがぜんぶ百合キスの想い出なんて……最高に幸せですよね♪」


「私と感覚が違うなぁ……」


 由理は遠い眼をした。

 けれど、いつもはツンツンな新人メイド、たつみ千歌流ちかるさえも頬を染めて、


「べ、別に私は、もうお腹いっぱいですけどっ。先輩たちがしたいなら……いいですよ」


 さらに褐色スポーツ少女の内山凛夏りんかに、リズと同じ高3の外川粧子しょうこも、


「むー……。私たちさ、あんまりシフト入れられないから、キス不足ぎみなんだよね。もっと……したいな」


「そうそう。今日はいぃーっ……ぱい!キスできると思って楽しみにしてたのよ。まだまだ、寝かさないんだから♪」


 どうやら誰も、まる一日百合キスしてたくらいでは、満足してないようです。


「はぁ……はぁ……あと100回はしたいよぅ♪」


 季紗がチョコより甘い百合キスに、中毒になっておられる。

 お皿やコーヒーカップを片付けながら、店主マスターとおるお姉さんが、何かを諦めた顔。


「……うん、お家の人へは、私が電話しておくから。泊まるなり、好きにすれば?」


 バレンタインだしな……と広い心で全てを許可した店主マスターの言葉に、百合メイドたちから歓声。

 今夜は……いいえきっと明日の朝まで、ゆりんゆりんでとってもリリィな、口づけと唾液の舞踏会が……。


「よ、よく飽きないわね。こんな毎日キスして……もうっ」


 はぁ、とため息をつきながらも、由理も赤い顔。

 百合キスしたくてしたくてたまらない仲間たちに、すっかり染められたか。

 パキッと割ったチョコの欠片を口に含んで……みんなと唇を吸い合った。


「ん……ちゅぅ。む……ふくぅ。んんっ……ぷ、ちゅぅぅ……♪ ふぁぁ、べ、別に興奮なんてしてないけどっ……もっと、キスして……♪」


「ふふっ、美味しいよぅ♪ ぬる、ぬるる……ぬるぬる、ぬるぅ♪ ぬるっ、ぬるんっ♪」


「し、舌挿れ過ぎだってぇ♪ も、もうっ、お返ししちゃうかんね♪ かぷっ、じゅぶぅ♪」


「や、やぁん♪ そんな……ちゅっ♪ キスしながら、揉まないでぇ……♪ ふぁ、ん……♪」


「ちゅ……ちゅっ、ちゅぅっ♪ ちゅふ、ちゅぷぅ♪ やっぱり百合キスは、幸せの魔法だね、早百合♪」


「ふぁ……んんっ♪ ええ、りりな。もっと想い出作ろ♪ 赤ちゃんでもいいよ♪」


「ふ……んんっ、ちゅぱっ……。こ、これも勉強。キスのお勉強なんだから……もう少しだけ、深くしても……いいですよ? ……ちゅくぅ♪」


「はぁ、ふー、ふー♪ ちゅぱっ、ちゅぱぁ♪ や、やっぱこれがないとさー、生きてる気がしないよな!」


「ちゅぷっ、ぶちゅ♪ ぬぷっ、むぐぅ! ふぁぁ、たっぷりキス貯めしておかないとね♪ ん、くちゅ……う♪」


 9人で百合キス……組み合わせは無限、接吻くちづけの万華鏡。

 唾液の銀糸を結びながら、季紗が由理へ微笑む。


「ふふっ……幸せ、だね」


「ん……ま、まぁ、ちょっとは、ね?」


 照れて強がりながらも、由理も、幸せを感じていた。

 百合キス。百合キス。朝から晩まで、毎日毎日百合キス。

 女の子同士で、唇の温度を感じ合う……愛の言葉より、手作りチョコより……思いきり全力で、「好き」の気持ちを分かち合う。

 こんな素敵なことって、他に無い。


(そっか……私、世界一幸せなのかな)


 美緒奈と、リズと……唇を重ねていきながら、由理は思った。

 愛する幸せ、キスする幸せ……世界の誰が嘲笑わらっても、この唇の熱を、否定しない。


 百合キスは、幸せの証。

 幸せを求めることが、百合キスするのが間違いだなんて……誰にも言わせない。神様にだって、言わせない。


「ちゅぷっ……んんっ♪ ねえ、みんな……」


 てらてら光る唾液の蜜で、愛の糸を結びながら。

 由理は、にこっと微笑んだ。


「私……百合キス、好きだよ。……ちゅっ♪」


《バレンタイン編 終了》 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る