「南原美緒奈」編 終 唇いっぱいの、愛を。

「ちゅぅぅっ……♪」


「むぅ……!? んぷ、ふ……ぅん♪」


 イルミネーションきらきら瞬く、冬の所沢駅前、陸橋の上で。

 お気に入りのゴスロリドレスを着た美緒奈みおな由理ゆーりの腕を引き留め……唇を押し当てた。


(ねえ……大好きだよ)


 唇に心を乗せて、背伸びして。

 由理の胸に甘えてみせながら。


「ちゅむぅ……んぷ。ふぅ……んむぅー……」


「ふぅ♪ んっむ、ずぷんっ……!? んく、くぅ……♪」


 突然のキスにびっくりした様子の由理、赤くなりながらも、すぐに強張りは解けて。

 美緒奈にされるがまま、唾液を吸われて羞じらう。


 ぷは、と糸を引きながら唇を離して、


「ば、ばか。なんなのよ、もう……」


 街ゆく恋人たちが、ぎょっとした様子で2人を見てる。

 熱々な百合キスを見せ付けたことに照れながら、由理が睨んできた。


「ま、前から聞きたかったんだけど。美緒奈は、その……」


 いくら鈍い由理でも、もう気付いてる。


「私のコト……好きなの?」


「ふぁぁぁっ!? そ、そんなわけっ……」


 美緒奈は恥ずかしくなって、いつもみたいに否定してしまいそうになって……。


 それじゃ、何も変わらないと、思い止まった。


 胸が、破裂しそう。ツインテールが、緊張に揺れる。

 赤い頬の火照りを冷ますように、冬の空気を深呼吸して。


「由理の、ばかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 ツンデレを炸裂させた。


「気付くの遅すぎっ! み、美緒奈様がこんなにキスするの、由理だけなんだからね!? 宇宙一可愛いあたしがこんなにドキドキしてるのに、あたしにメロメロにならないとか、ふざけんなぁ!?」


「な、な……!?」


 伝えないままでいいなんて、そんなはずない。

 好きが溢れて、もう止まらない。


「好き好き好き、大好きっ。あたしは、由理が好きなのぉっ! 由理とキスしたい。手、繋ぎたい。恋人に、なりたいんだからぁっ!!」


「ちょぉっ、み、美緒奈ぁっ! あんた、こんな、駅前でぇ!?」


 大・注・目。

 由理もかつてないくらい赤くなる……告白されたことより、所沢駅前の皆さんに見られてることに。


 でも、美緒奈はもう止まらない。

 誰に見られたって、バカにされても構わない。


 由理に、大好きな一人にさえ、ちゃんと気持ちが伝われば、それで。


「あたしは、由理のことが……性的な意味で好きなんだからぁぁぁぁぁぁぁっ!?」


「あ、あんたバカぁぁぁぁ!?」


 ……バカにされた。すごく赤面した由理に。


 大声出して、2人白い息を吐き出して。

 美緒奈は、ぽろっと涙を零した。


「あ、あたしに……この美緒奈様にっ。こんな、下手くそな告白させて……っ」


 もっと、うまく気持ちを伝えられると思ってた。

 ロマンチックな、映画みたいな告白を、思い描いてた。


 現実は、そんなにうまくいかない。

 もっとずっと、泥臭くて、みっともなくて。


 けれど。


(しょうがないでしょ、好きなんだから)


 恋の駆け引きなんて、知らない。

 上手な告白の方法なんて、分からない。


 ただ、ストレートに気持ちをぶつける……純粋な乙女に、他のやり方なんて。


「……ちゅっ」


 怒った顔のまま、でも恋する乙女の、あかねの頬で。

 最強の告白……百合キスをしてみせた。


「……由理のばか。いい加減、伝わったでしょ」


「……つ、伝わり過ぎよ、ばか」


 好き。好き好き大好き愛してる。

 下手な告白だけど、その気持ちは、ちゃんと伝えられた。


 ※ ※ ※


「由理さ、季紗きさねえにも告白されたでしょ?」


「ふぁ!? し、知ってたのぉ!?」


 あたふたしてる由理へ、美緒奈は羞恥でうつむきながら、


「……ごめん、返事を今聞く勇気は、あたしには無いや。でも……」


 せいいっぱいの勇気を振り絞りながら。

 にこっと微笑んだ。


「……クリスマスまでには、聞かせてほしいな。由理が、を選ぶのか、さ」


 季紗と美緒奈のどっち・・・、とは言わなかった。

 だって、たぶん由理の一番は……。


「……へへ。じゃあ、あたしは帰るね」


 ちゅ、とキスしたら、もう後は由理を振り返らず、美緒奈は、駅へ背を向け駆け出した。


(リズ姉、季紗姉。あたしも、ちゃんと由理に伝えたよ)


 もう、胸は痛まない。きっと、ベストを尽くしたから。

 ああ、なんて爽やかな心地。心に翼が生えたよう。


(由理に恋して、良かった。気持ちを伝えられるあたしで……良かった)


 いっぱい、美味しいもの食べよう。いっぱい、お洒落しよう。アニメ見よう。

 解き放たれた軽やかな心で、美緒奈は所沢の街を駆け飛んでいった。


 由理、思考が追い付かないまま、一言。


「え、この荷物……私がぜんぶ店に持ってくの?」


《「南原美緒奈」編 終了。そしてクリスマスへ……》

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