「南原美緒奈」編⑥ 恋する幸せ

 次の日、百合メイド喫茶「リトル・ガーデン」がある街から、電車ですぐの、埼玉県所沢市。

 美緒奈みおなのホームグラウンドでもある所沢の駅前で、美緒奈と由理ゆーりは買い物デートを楽しんでいた。


 クリスマスの飾りつけに使う、カラフルな布やリボンを、デパートに入った服飾のお店で選んだり。

 パーティグッズなど小物を探しに寄った100円ショップで、鼻メガネを掛けて噴き出し合ったり。


「ちょっとぉ、荷物多いんだから、美緒奈も少しは持ちなさいよ?」


「えー、か弱い美緒奈様に持たせる? まっ、あたしは天使だから持ってやるけどさ」


 戯れて、文句を言い合って……時々、キスをして。


「疲れたー。由理、ご褒美のキスしてー」


「ば、ばか。私の方が荷物多いでしょ」


 でも、羞じらいながらキス。


「……ちゅっ。ちゅふ……んむぅ♪」


「るぷっ……♪」


 柔らかな舌の感触。

 甘々百合キスデート。


 ……けれど。

 楽しい時間は、あっという間に過ぎ去って。

 所沢駅前は、すっかり日も落ち、星空のようなイルミネーションに彩られる。

 都心や遊園地には及ばない、ありふれた、冬のイルミネーション。

 けれど確かに恋人たちを祝福してくれる、クリスマスの光。


 駅前の陸橋の上、追加の買い物でちょっと離れた由理を待ちながら、美緒奈はイルミネーションを見下ろして思う。


(……うん。あたしやっぱり、由理といっしょにいると楽しい)


 意識し出したのは、春に秋葉原でデートしてから。

 それから毎日、喧嘩して、キスして、喧嘩して、キスした。


 恋心を抱いてから、リズや季紗に嫉妬したり、やきもきしたり……胸が苦しいことも有ったけど。

 それでも、この毎日は……イルミネーションみたいに、きらきら光り輝いた日々。


「ごめん、待った?」


 買い物袋抱えて戻って来た由理へ、美緒奈は、可愛らしく頬を膨らませてみせながら、


「遅ーい。美緒奈様を待たせるとか良い度胸じゃね? 罰として……」


 キス、してよ、と。

 口づけをねだった。


「んっ、ぷぁ。ちゅぷっ、くぅ……ん♪」


「も、もうっ、美緒奈? こんな、キスばかりしてたら、んっ♪ 帰るの、遅くなっちゃう……」


 不満みたいなことを言いつつも、唇は美緒奈を受け入れてる由理。

 その唾液をねぷねぷと味わいながら、美緒奈は、


(こんな毎日が、続くなら。……告白、出来ないままでもいいかな)


 想いを伝えたら、関係が変わってしまったら。

 輝ける愛しい日々……初恋の日々は、もう戻らないかもしれない。

 それは、とても切なくて。


「ぷはっ……。ほら、帰るよ?」


 唇を離し、駅へ向かおうとする由理。

 今、止めなければ。

 また明日も、百合百合して、キスをして……ただそれだけの、甘やかな日常が続く……。


(でも、だめだよね)


 望む未来が有るのなら。

 手を、伸ばさなければ。


 美緒奈は、大きく息を吸って。


「……待って!」


 ぎゅっと、由理の袖を引いた。

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