「南原美緒奈」編⑤ 好きのひとことが、言えなくて

「ちゅっ……ん。ふ……ちゅぶっ……」


「んふ……くぶぅ。ぬちゅっ、ずぷぅ……」


 百合メイド喫茶「リトル・ガーデン」の休憩時間。

 休憩室で2人きりになったタイミングを見計らって、美緒奈みおな由理ゆーりに抱き付きキスをした。


「ぷはっ……。み、美緒奈ってば、なんか今日は、キス多くない?」


 唾液の糸が垂れる濃厚百合キスをしながら、照れる由理へ。

 美緒奈、羞じらいながら、


「だ、だって……す、す……」


 頬が熱くなる。喉が渇く。

 あと一文字、一文字続けるだけなのに。


「す、スープの口移しも練習しねーとな!? 冬は注文多いから!!」


「ちゅぶぅ!? ん、むー!?」


 唾液をスープに見立てて?百合キス再開。

 泡立つくらいにちゅぱちゅぱと、音を立てて接吻しながら、美緒奈は思う。


(ああ、もうっ。なんであたし、『好き』って言えないのさー?)


 たった2文字。

 されど、勇気がいる2文字。


「す、すき……」


 唇を離して、潤んだ瞳で由理を見上げて。

 美緒奈が何を言おうとしてるか気付いたのか、由理も真っ赤になる。


 の、だけれど。


「すき焼きも口移しメニューに入るかもしれねーぞ!? 練習しよーぜ!」


「な、なんなのよ、もぉぉ!?」


 ちゅぷぅぅ♪

 キスはしたけど、ぜんぶ口移しの練習ということにしてしまった。


 ※ ※ ※


 夜、閉店間近の時間。

 由理が、今日はお客様として来店の円美まるみお嬢様と、「お風呂でキャッキャうふふサービス」中の間に。


 美緒奈は机に突っ伏し、しょんぼりツインテールとなっていた。


「うぁぁ、あたしってヘタレかも……?」


 そんな美緒奈を見かねて助け舟を出したのは、季紗きさだった。

 閉店後、お掃除中の由理と美緒奈へ、


「ねえ、明日は、クリスマスで使う飾りつけの道具を、買って来てほしいのだけど。荷物多くなるかもだし、2人でお願いしたいな」


「え、べ、別にいいけど」


 告白されたばかりの季紗からお願いされて、照れて髪を弄ってる由理。


 ともあれ、明日は由理と美緒奈で買い物デートすることに。

 2人きりになるチャンスを、季紗が作ってくれた。


 帰る前、更衣室でメイド服を脱ぎながら、美緒奈は季紗へ聞く。


「……どうして、助けてくれるの? 季紗ねえとあたしは、ラ、ライバルなわけでしょ?」


 するっと胸元のリボンをほどき、可愛いブラを覗かせながら、季紗は微笑んだ。


「この前言ったでしょ? 私……美緒奈ちゃんのことも好きなんだもん」


 桃みたいな良い薫りを漂わせ、季紗が肩を抱いてくる。

 清楚で可憐な顔を、美緒奈へ近付けて、


「だめかな。好きな人の応援するのって?」


「……季紗姉、いい子過ぎ」


 苦笑しつつも、美緒奈は。胸に暖かなものが広がるのを感じた。

 美緒奈も、やっぱり季紗が好きで。

 この告白が、どんな結果に終わろうと……季紗との絆は切れたりしない。

 ううん、絶対、切らさない。

 そんな風に、美緒奈は胸へ誓った。


 にぱっと笑ってみせて、美緒奈。


「もし……もしさ、あたしも季紗姉も、由理に振られちゃったら、その時は」


 偽らざる想いを、口にした。


「あたし……季紗姉と結婚するのも良いな、って」


 季紗も、にこと微笑み返して、


「うん、由理とリズさんに、いっぱい見せ付けちゃおっか♪」


 ……ちゅ。

 そのまま、愛しげに口づけを交わした。


「ちゅ……んぷ。ふっ、んく……♪」


「ぷちゅ、ずぷ……。んむぅ、ふ、ふぅ……ん♪」


 2人は、仲良し。

 恋敵ライバルになっても、それは変わらない。

 今までキスした……その絆は、もう切れない。


 エール替わりに舌を挿れながら、季紗。


「美緒奈ちゃん……がんばって」


「ん……いってきます」


 美緒奈も、舌を絡め返して答える。

 唇と唾液で結ばれた……これが、百合メイドたちの、熱い絆。 

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