「初めて」捧げられました②

「私、前園まえぞの円美まるみっていいます。パンフレットで、このお店のこと知って……」


 夏も終わりのある日、百合メイド喫茶「リトル・ガーデン」へやって来た中学生のお嬢様。

 おかっぱ頭を少し長くした和人形のような頭で、艶やかな黒髪。

 ツリ目にアンバランスな困り眉が、なんとも気弱そうな印象を与える……そんな可憐な印象だが?


「オトナの階段、昇りたいんですっ。お姉さま、円美に初体験させてください……!」

「……なんか、季紗きさと同じ匂いを感じるわぁ」


 わざとなのか天然なのか、いちいち言い回しが淫靡な来客に、由理ゆーりはエロ乙女の匂いを感じ取る。

 当の季紗は、じゅるりと生唾を飲み込んだ。


「まるみちゃんかぁ、お名前通り丸い感じで、ちっちゃくて……可愛いね♪」


 お嬢さんを逃がさない森のくまさんな表情……季紗の瞳が危険だ。

 でも、我に返って、


「ううぅ、でも初めてご来店のお客様だしなぁ……」


 百合キスへの期待でチラチラ熱視線を送ってくる少女に、なぜか季紗は困った様子。

 いつもなら喜んで襲い掛かりそうなのに。


 由理が髪を弄りながら、


「倫理的に色々マズい気はするけど……本人がキスしたいなら、いいんじゃない?」


 このお店に来る女の子は、皆そういう趣味なのだ。由理もさすがに理解済み。

 そこへ美緒奈みおなが、ツインテールを揺らして来た。


「あれ、由理聞いてねーの? ファースト百合キス希望のお客様は、リズねえがキスするルールなんだぜ」

「なにその謎ルール……」


 初めて聞いた。

 でも思い返してみれば確かに、心当たりがあるような、無いような。

 初来店のお客様は、リズが対応していた気がする。バイトリーダーだからかな、くらいに思っていたが。


 季紗、隣に立つ後輩メイド、宮野りりなと瞳を交わして、


「それがね、私達が代わりに百合キスしたこともあったんだけどね……」


 ぽっと頬を染めて。


「つい、ディープにやり過ぎちゃったら、泣かせちゃって。てへ♪」

「トラウマ与えたってコトかぁぁぁ!」


 うん、でも由理も納得。初めてのキスを、えっちな季紗にじゅぷじゅぷ奪われたら……ロマンティックな想い出♪とは、ならないかも。


(……あ、私もファーストキスは季紗なんだった。あれは、事故だけど)


 思い出して一人照れる由理。

 と、美緒奈が赤くなりながら、


「あたしもファーストキスは、季紗姉だったんだよね。初めてこのお店来たらさぁ……」

「ふふっ、美緒奈ちゃんは泣くどころか、舌挿れ返してきたよね。初めてであれなんて、大胆……♪」


 後輩メイドの宮野さんが興奮。


「いいなーいいなー、みーちゃんのファーストキス! よしじゃあ処女は私がもらおう」

「こら、初めてのお客様の前で……。宮野さん、少し黙ろうね♪」


 季紗、唇で宮野さんの唇を塞いだ。

 ……ちゅぷっ♪


「んむぅ♪」

「あ、あの……っ」


 おとなしかったお客様……前園円美、おどおどした顔なのに、露骨に「キスするなら私にしてください」という非難の眼。

 よっぽど百合キスしたいらしい。


 そこで美緒奈、


「季紗姉と宮野ちゃんはエロ過ぎるからダメとして。しょうがねーな、ここは美緒奈様が、オトナのテクで最っ高のファーストキスを体験させてやるか♪」


 腰に手を当て、平らな胸を張る。ツインテールがぴょこん。

 でも円美、悪気はないのだろうが、


「えと、小学生はちょっと……。私、初めてはもっと『お姉さま』って感じの素敵な女性がいいです」

「誰が小学生だこらぁぁぁぁぁ!?」


 美緒奈をぷんすかさせた。


「ふんっ、美緒奈様のオトナのみりきが分からねーとはなっ! これだからお子様はっ」


 ぷりぷりしながら、お仕事(他のお姉さま達への百合キス)に戻る美緒奈。身長140cm台。


 ともあれ、見た目もちゃんと年上なお姉さまとの接吻をご希望なお嬢様に。

 由理、気付いた。


「……あれ、てことは私がするの?」


 由理、女の子の「初めて」を初めて奪うの巻。

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