海が呼んでいる

「ちゅ……んっ。んふぅ……む、ふぅぅ。んぷちゅぅ……」


 百合メイド喫茶「リトル・ガーデン」、開店前恒例の歯磨きチェック。

 由理ゆーり季紗きさがメイド服姿で、抱き合ってキス。


「……んっ、ふぅ。ん、由理は合格ね」


 唇を唇でなぞり、唾液で湿らせて。

 今日は軽めの百合キスで、季紗から唇を離した。


「え、これだけなの? いつもなら、舌挿れてくるのに」


 季紗ってば何か悪いモノ食べた?と心配になっちゃう由理。

 普段の季紗は、もっとディープに口腔内の粘膜を交換してくるはずなのだ。


「って、物足りないとかじゃないからね!? 勘違いしないでね!?」


 もっとちゅぷちゅぷ貪られるのが、由理さんはお好みのようです。


「そっか。由理、そんなに私とキスしたいんだ……。照れるね♪」

「だから違うってばー!?」


 ぽっと赤くなる二人。今日もイチャイチャ。


 さて、季紗は真面目な顔になって。


「実はね、ちょっと夏バテ気味というか。1日10回位しか百合キスする気にならないのよね」


 じゅうぶん元気じゃん、と心でツッコむ由理の前で。

 季紗、ふぅ、とため息をついて、自分のロングヘアーを手ですくい上げる。


「この髪も、夏は暑いのよね。汗で蒸れるし……」


 むー、と唇を歪め、


「……切っちゃおうかしら」

「ええっ、もったいないよ!?」


 季紗のさらさらヘアー。亜麻色掛かった綺麗な色で、滑らかな手触りの長い髪。

 お姫様のような麗しの髪を触り、由理は頬擦りする。

 どんなシャンプーを使っているのか、華やぐフローラルな薫りを鼻腔に吸い込んだ。


「季紗の髪、私は好きだな。柔らかくて、良い匂いがして」

「あ、あの、髪の匂い嗅がれるのって、恥ずかしいんだけど」


 キスは平気な季紗が、羞じらってもじもじしている。

 乙女の命な髪の毛をこんな風に愛でられると、照れるらしい。


「うわ、すべすべ……♪」


 ……ちゅっ。由理は、季紗の髪にキスをした。


「きゃっ? て、照れるよぅ……」

「いいなぁ、長い髪。お手入れ大変で、私も、伸ばしたかったんだよね」


 お手入れ大変で、諦めちゃったけど。

 由理は、昔を懐かしむ。


「……お母さんも、伸ばしてたんだ。初恋の人が、綺麗な金髪してて憧れたとかって」

「……由理」


 季紗、赤い頬のまま、


「……由理のお母さんも、百合な人だったのね」

「なんでそうなるの!?」


 だって、と季紗、


「初恋の人が長い髪って……女の人ってことじゃないの?」


 由理、今まで疑問に思ってなかったけど気付いた。


「え? あれ!? そうなの!? で、でも髪の長い男の人もいるし……? で、でもお父さん髪長くないし……。あ、あれぇ!?」

「ふふっ、そうかぁ。長い髪がお母さんの思い出かぁ」


 季紗、嬉しそうに照れ照れしながら微笑んだ。


「そういうことなら、私の髪、好きにしていいよ♪ 由理になら、ペロペロされても私……♪」

「しないよ!? 髪の毛舐めるとか変態か私は!?」


 そこへ、美緒奈みおなが。

 あたしも髪長いんだから、ペロペロしてもいいんだぞ、なんて口の中でごにょごにょしながら睨んできた。


「二人とも、そろそろ開店だぞ。いつまでイチャついてんのさっ」


 腕組みして、なんだかご機嫌ななめ。


「それに、暑いからって勝手に髪短くするとかダメだからね。ファンの女の子だっているんだからさ、よく考えねーと」


 季紗に釘を刺して美緒奈、 


「それより夏バテ対策なら、美緒奈様特製のピリ辛サンドイッチ食べるといいよ。もちろん口移しでっ」


 パンらしき赤い物体を口に含み、んー♪とキス顔で目を閉じてきた。


「え、私辛いの苦手……。由理、ど、どうぞ?」

「い、いや私も……。明らかにピリ辛って色じゃないし……」


 真っ赤なパンと唐辛子のスパイシーな匂いに、尻込みする二人へ。

 美緒奈がもー!と怒った。


「早くキスしないとパンの柔らかさが損なわれるだろ!? ほら、由理!」

「んぷぅ!? ちゅ、んん! 辛、んむぅぅ……!? んんぅ!?」


 ちゅむ、ちゅぷん、ずっぷぷ……。

 キスで唇を塞がれながら、由理は涙目で美緒奈の背中を叩くのだった。


「うわぁ、舌入ってるよね、これ。夏でも激しい百合キスだぁ……♪」


 濃厚接吻唾液交換(激辛)についときめいて、頬を染めて見守る季紗。


「ふふ、開店前から元気ね、3人とも」


 そこへにこにこ、金髪縦ロールを揺らしてリズ。

 髪といい乳といい、一番暑そうな人が来た。


「夏も元気な貴女達にグッドニュースよ。今度、海の家に出張開店ですって♪」

「海で……百合キスですか!?」


 瞳を輝かせる季紗。

 美緒奈と由理は、


「ちゅんん、んぷ、くむぅ……っ♪ か、辛くて刺激的なのが、病みつきにぃぃ……♪」


 キスに夢中で聞いてなかった。

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