うなぎのように、ぬるぬると。

 〈補足・この回の初出の時は、まだうなぎが絶滅危惧種ではありませんでした。多分。〉


 夏の百合メイド喫茶「リトル・ガーデン」。

 今日は季紗きさが新作料理を、由理ゆーりへ振舞う。


 メイド服のスカートと亜麻色ロングの髪をふわりとひるがえし、テーブルへ置いたのは。


「ふふ、土用の丑の日用で、うな丼作ってみたの。さあ、召し上がれ♪」

「へぇ、季紗って料理出来るんだ。お嬢様で、家にメイドさんいるくらいだからさ。自分ではやらないのかな、とか勝手に思ってたけど」


 意外な顔する由理へ、


「さすがに、自分でうなぎさばいたりまでは、してないけどね」


 うなぎを上手に捌くのはたくみの技なのである。


「うちのメイドさん……ふぶきさんは萌え担当だから、料理はそんなに得意じゃないのよ。両親も海外ですもの、私けっこう自炊してるのよ」

「待て萌え担当ってなんだ」


 それは屋敷に必要なのか?という由理の疑問はスルーして、季紗が微笑む。


「今日、うなぎ捌いたのはリズさんだけど。タレとかの味付けは私がやってみました♪」


 洋食メニューとスイーツが中心の「リトル・ガーデン」で、和食は珍しい。

 由理もわくわくしながら、丼のフタをカパッとオープン。


「ん、いい匂い。食欲そそるわぁ♪」


 湯気を立てるほかほかご飯に、甘いタレの香り。

 夏バテを吹き飛ばしてくれそうな、うなぎと山椒の組み合わせが、空腹な胃袋を刺激してくれる。


「じゃ、いただきまーす」


「待って由理、他にも夏バテ予防の料理作ってあるから♪」


 そして季紗が次々給仕するのは……。


「はい、すっぽん鍋にゴーヤチャンプルー、アボガドサラダにぃ……マムシエキスのドリンクも有るよ♪」

「多っ!? っていうか、この内容って……」


 ツッコミ所が多くて困るが、由理的に一番指摘したいのは、


「そ、その……全部、精が付きそうな食べ物ばっかりね」


 私、乙女なんですケド?と赤くなりながら、並んだ料理へ目をやる由理。

 精力付けさせられても、ちょっと困るのだけど。


 季紗は、ぽっ♪と頬を染めながら、カラダをくねらせた。


「うん、性欲増強しそうな料理を集めてみました。いっぱい食べてムラムラしてね♪」

「せ、性欲とか言うなエロ乙女!?」

「ちなみにデザートは私です☆ どうぞ遠慮なく、召・し・上・が・れ♪」


 メイド服の胸元リボンをしゅるっとほどく季紗。美味しく頂かれる準備は万全だ!


「脱ぐなぁぁ!? 季紗の頭にはえっちなコトしか無いわけ!?」

「それがつまり生きてるってことだよ!」


 堂々と肯定して季紗は、瞳を輝かせる。


「百合キスしたい! 由理とえっちなコトしたい! うなぎのようにぬるぬるしたいよ!!」


 あくまで見た目は清楚系お嬢様の顔で、もじもじしながら。


「つまりね、私がしたいのは貝合わ」

「それ以上は言っちゃダメぇぇぇー!?」


 (エロ方面に)直球どストレート過ぎる季紗を、由理は制止!

 季紗と違い清純乙女の羞じらいを忘れてない由理、赤面する。


「ば、ばか。キスは毎日してあげてるんだし、満足しなさいよ。私、ノンケなんだからね?」


 でも季紗は、真剣な調子でぽつり。


「……足りないよ」

「え?」


 ピンク色の唇に指を当てて、甘い吐息を漏らす。

 星の瞳には、欲情の色を浮かべながら。


「由理、昨日は美緒奈みおなちゃんとデートだったんでしょ? いっぱいキスしたんでしょ? ずるいよ、私だってチューしたい!!」


 恋する乙女なのかただの色情魔なのか、判別し難い表情で詰め寄る季紗。

 百合キス百合キス百合キスキスミーと脳内の妄想が溢れ出すハァハァお嬢様の顔が間近に迫って、不覚にも由理は、


(ぐっ……こんな発言してても可愛いのって、なんかずるい)


 長い睫毛まつげに整った顔立ち、カラダからは桃のような薫りが立ち昇る季紗に、ついときめいてしまった。


「い、いや昨日のはデートっていうか……期末テストの賭けに負けた罰ゲーム的な? そ、そんなにたくさんはキスしてないってば」


 10回位しかしてない、はず。昨日の美緒奈とは。

 時間で言うと2時間くらいだからそんなに多くないよ!?


「問答無用! まずは、うな丼口移しだよ♪ ……ちゅぅ♪」

「ちゅぷむ……!? ご、ご飯ものは口移し向かない、ような!?」


 濃厚な味のうなぎの身を舌に乗せて。

 その舌がぬるぬる粘膜に覆われたうなぎのように、由理の舌と絡まる濡れ合う。


「ぐぷ、ぐぷぬぷ♪ どうかな、天然もののうなぎは美味しいでしょ? スタミナ付いちゃうね♪」

「ちゅにゅぅ、ぐ、むぅっ!? だ、誰かこの子を止めてぇぇぇー!?」


 夏バテ無縁の百合キス試食会。

 ……季紗には、うなぎで精力増強とか要らなそうです。

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