美緒奈様へご奉仕♪(後編)

 埼玉県、所沢駅ナカのテラスにて。気付けば夕方。


「……はっ! 逝ってた!?」


 由理ゆーりに唇を奪われ、ぽしゅーと頭から蒸気を出して気絶していた美緒奈みおな、意識を取り戻す。


「み、美緒奈ってばすごく赤くなるし。そんな反応されたら、て、照れるでしょうが」


 今日は美緒奈様の専属メイドな由理、メイド服姿で羞じらう。

 それに負けず劣らず、美緒奈も頬を紅潮させて、


「こ、こ、この……」


 由理へ、指を突き付けて八重歯を剥く。


「この、キス魔ー! おと、乙女の唇を、なんだと思ってんのさぁー!?」

「だっ、誰がキス魔か! 美緒奈たちに言われたくないっての!?」


 夏休み始まってすぐの、所沢駅屋上テラス。

 西武池袋線と新宿線が交差するターミナルには、ギャラリーもたくさん。

 一般人の注目を浴びながら、ゴスロリツインテお嬢様とメイドさんの痴話喧嘩が始まった。


「いきなりマジなキスするとかさ、雰囲気ってものがあるじゃんよ! ゆ、由理のエロス! 変態キス魔!!」

「み、美緒奈だって、喫茶店でキスしてきたじゃない!? あれ、皆に見られるの恥ずかしかったんだからね!?」


 ちなみに今も一般人に見られている。「え、あの子達、女の子同士でキスしてるの?」と、好奇の眼やキマシの眼で見られているが、二人とも気付いてない。


 嬉しすぎて混乱してる美緒奈、つい素直になれずに……。


「う、うっさぁい! キスは、特別なんだぞ!? 乙女の純情弄んで、由理なんか嫌いだ―!?」

「……あっそ」


 カチンときてしまった様子の由理、腕を組んでぷいっと横を向いてしまう。


「悪かったわよ、いきなりキスして。もう、しなければいいんでしょ」

「う……」


 そんな風に突き放されると、美緒奈は雨に打たれた子供のように、泣きそうな顔になるのだった。

 嫌いなんて、そんなわけ。

 ほんのちょっぴり勇気を出して、素直になって。

 照れ照れしながら、由理の腕を引っ張って、


「ば、ばか。キスは、しろよな。今日は、あたしだけのメイドなんだから」


 美緒奈は、ご奉仕の百合キスを求めた。

 嫌いなんて、嘘だから……赤い表情で、精いっぱい目で訴えながら。


「ああっ、もー! いいからあたしにキスしろぉ!? お嬢様の言葉には絶対服従だろ!?」

「……最初から、素直に言いなさいよ、もう」


 やれやれ、と肩をすくめる由理。

 照れながら、にこっと微笑んで(ちなみに周りの注目にはまだ気付かない)。


「……ご奉仕のキスよ、美緒奈お嬢様」


 ちゅぷぅ、ぬぷ。舌を、唾液を貪り合う水音。淫靡で清らかな、百合的愛欲のハーモニー。

 燃える唇をすすり合い、銀糸を垂らしながら、夕日の中で抱き合って、いっぱいキスをした。(キスに夢中で、周りの視線に気付かない)


「……ねえ、由理。今日だけなんて言わないで」


 もっとずっと夏休み中、私に百合キスご奉仕して、とお願いしかけて。

 美緒奈はあんまり恥ずかしくなりすぎて、言葉を飲んで。


 ……かわりに、夏空に星が瞬き出すまで、接吻くちづけを交わすのだった。

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