百合フェス編① 百合園への誘い
夜、マンションの高層階にある
数学の宿題の存在をあえて脳内から消去した
『百合フェス?』
「そう、今度の日曜日ね。百合同人誌オンリーの即売会だよっ♪」
テンション高めに片腕とツインテールをぶんぶん振り回し、季紗を誘う。
「コスプレもOKだよ。皆でまど○ギコスしよーぜ!」
百合フェス。
主に東京都で定期開催されている、百合作品オンリーの同人誌即売会である。
コミケのような大規模イベントではないが、それゆえに百合を愛する紳士淑女の絆を深く分かち合える、優雅な社交の場なのだ!
『楽しそう! 行く行く♪』
電話の向こうから、季紗の弾む声。
でも、ふと。
『……あら、でも皆って?』
「
息を飲む気配が電話の向こうでしたが、とくに気にせず美緒奈。
「リズ
マジで着せたかったんだけどなー、と残念がる美緒奈へ、
『……』
電話口から返ってくるのは、沈黙だった。
「どしたの季紗姉。急に黙っちゃって」
『ふぇぇっ!? な、なんでもないよぅ!』
慌てた声色から、動揺が伝わってきて。
『こ、今度の日曜日だよねっ。ご、ごめんね美緒奈ちゃん! やっぱり私も行けないや、うん』
「えー、お店なら平気だよ? 宮野ちゃんと早乙女ちゃんが前の百合フェス行ったから、今回は『リトル・ガーデン』で店番するって言ってくれてるし。なんとか回るって」
日曜は百合メイド喫茶「リトル・ガーデン」全日営業だが、
『そ、そうかもだけど……ほら、夏のイベント企画とか、お店で考えたいこともいっぱい有るしっ。美緒奈ちゃんは、由理と2人で楽しんできなよ』
……どうしたのだろう。
そそくさと、不自然さを感じる慌てようで、電話を切られてしまった。
いつもなら、必ず下着の色を聞いてくるくせに。
美緒奈は、ため息を吐いた。
「うぅぅ、結局由理と2人かぁ。き、緊張するんだけど……」
テレビは付けたまま、ベッドにダイブ。
枕を抱いてごろごろ。頬が、ちょっぴり赤い。
「って、なんで美緒奈様が緊張するのさー!? べ、別に由理と2人だからって意識する
八重歯を覗かせ、ベッドの上でのたうち回る美緒奈。
リズ姉や季紗姉もいた方が、気楽だったんだけど。
はぁ、と息を吐いて、とくとく高鳴る胸に戸惑うのだった。
※ ※ ※
「……うぅ、複雑だよぅ」
こちらもベッドの上で、寝間着姿の季紗。
通話を切ったスマホを胸に抱いて、少し泣きそうな顔。
正直、行きたかった。
季紗は美緒奈ほどアニメやゲームに触れてないが……皆でコスプレも面白そうだなと思った。
「……でも、ダメだよね、美緒奈ちゃんを応援してあげないと」
私、美緒奈ちゃんも好きだもの。
季紗は、自分にそう言い聞かせる。
(私は、今の関係が好き)
由理と、美緒奈と、リズと。
他にもメイドのふぶきや、
お店に来るお嬢様たち。
皆と気軽に百合キスできる、今の距離感が、気に入っている。
(だから、それが壊れてしまわないように)
胸をちくりと刺す痛み、心の奥を焦がす昏い炎には、フタをしてしまおうと。
そう願うのだけど。
「うぁぁぁ、やっぱり複雑だよぉー!?」
コスプレ姿で由理に抱き付いたりキスしたりちゅっちゅしたりという欲望を抑えきれず、ベッドのシーツを乱して悶えるのだった!
これを、このカラダの火照りを鎮めるにはどうすれば!?
「……よし。早乙女さんに借りた百合ゲやろう」
ここでエロゲに逃げる。
ベッドから起き上がり、
「ふぶきさーん、一緒にえっちなゲームやろう♪」
溶けそうに羞じらうメイドを、ベッドへ連れ込むのだった。
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