美緒奈さまお泊まり編③ 禁断の扉開けて……?

「だ、だめっ……」


 逃げられない。

 小さなリビングの壁際、尻餅のまま追い詰められた由理ゆーりの制服に、美緒奈みおなの指が掛かって。

 ゴスロリドレスを着た美緒奈、温泉のように潤んだ瞳で、顔を近付けていく。


 軽い体重を由理に預け、唇を3cm、2cm、1cm……。


「……ぬちゅぅ♪」


 ああ、砂糖菓子みたい、なんて。

 キスの甘さに溺れる余裕も無く。


「ん……由理、ね、唇、開けて……?」

「んむぅ……!? む、ふにゅぅ……!」


 開けたら、舌挿れられちゃう。

 ロリな顔立ちに興奮の色を浮かべた美緒奈の顔を、密着至近距離で見ながら。


 由理は抵抗を試みるけど。

 頭は美緒奈の両手でがっちりホールド、逃走不可能。


 濡れた唇をこじ開け、由理の奥に侵入しようとする甘く爛れた舌。

 蜂蜜のような唾液がぬるぬる潤滑油になって、美緒奈の舌が徐々に由理の唇を押し開けて。

 ゴスロリ姿の小さなカラダから立ち昇る、花の匂いに脳が痺れてきて。


(だめっ……何も、考えられなくなるっ……)


 スカートの中、脚の付け根に、美緒奈の指が触れてくる。

 キスの先の、秘密の世界へ。禁断の扉がゆっくり開く。

 甘さに溺れた思考のまま、由理も美緒奈の腰に手を回して……。


 びくん。


「だ、だめぇぇぇぇっ!? やっぱりまだ早いってば!?」


 真っ赤な顔のまま、先にカラダを離したのは。

 美緒奈の方だった。


「ゆ、由理のエロ魔神! 乙女の腰に手を回したりっ、な、なに本気にしてんのさぁ!?」

「ふぇ、うぇぇい!? なんで私が怒られるの!? すっごい理不尽!」


 唇を銀糸で繋いだまま、罵り合ってみたり。


「由理ってば、エ、エロゲのやり過ぎだっての、なに期待してんだか。こんなの冗談に決まってんじゃん、ばーかばーか!?」

「はぁぁ!? 冗談って、あんた思い切りキスしておいて! そ、それに期待なんてしてないからね。だいたい私エロゲやらないし!?」


 どくん、どくんっ。

 荒れ狂う心臓の音を誤魔化すように、互いに大声上げる。


「本当よ? き、期待なんて、してないんだから……」


 うん、してない。絶対してない。

 由理は必死に自分へ言い聞かせるけれど、なぜか唇に残った熱が妖しい美味しさだった。


 色っぽい表情でチラチラ見られて、美緒奈慌てて後ずさり。

 転んだ。


「う、嘘っ。由理の嘘つき。美緒奈様とキスできて嬉しいくせに。ホントはエロゲみたいなコトしたいって期待してるんだろっ!」


 八重歯がちらり。


「み、美緒奈様は可愛いもんなっ。由理がよくじょーしちゃうのも仕方ないってゆーか? あたしは全然、これっぽっちも本気じゃねーけど」


 初夜の花嫁でもここまで恥じ入らないというくらい、頬を赤くして。


「でも、由理がしたいなら……いいよ?」

「ば、ばーかばーか!? 変な冗談は終わりにしてよね、私はノンケだっての。このえっち!」

「そ、そっちこそ本気にするなってばぁ! ばーかばーか!?」


 乙女2人、甘ったるいピンクな空気に赤くなって罵り合う。

 なんだか、微笑ましい。


 と、騒いでいたら。


 ……ぐぅ。

 2人息の合ったタイミングで、お腹の虫が鳴った。


「あ……」

「……」


 急速に冷静になる。


「騒いだら、お腹空いたわね、美緒奈?」

「ん。外も暗くなってるもんね……」


 残り香のように甘く漂うえっちな雰囲気を振り払い、リビングの照明を点けて、テレビの電源を入れて。

 2人慌てて、夕食の準備を始める。


「材料、ちょっと少ないかな。なに作ろっか……」


 冷蔵庫を開けて思案顔の由理へ、美緒奈が胸を張って。


「あたしに任せときなっ。美緒奈様の愛情手料理、食わせてやんよ!」


 露骨に「あんた作れるの?」的な目で見る由理へ、美緒奈は薄い胸を叩いて宣言。


「にひひ、3分で、すっげー美味いの作ってやるから。惚れるんじゃねーぞ?」

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