美緒奈さまお泊まり編④ 美緒奈の愛情3分クッキング♡

「うんうん、材料もあるし。これであたしの得意料理が作れるぜ」


 時刻は夕方6時半、お店の厨房とは別に小さなキッチンのある、「リトル・ガーデン」の居住スペース。

 台所から聞こえる美緒奈みおなの声に、


「大丈夫かな……」


 由理ゆーり、リビングでソファーに腰掛けながら、首を傾げる。

 お店のアルバイトでも、美緒奈が料理を作っているのは見たことが無い。


 お湯を沸かす音。

 食器を戸棚から出しているらしい音。

 美緒奈の鼻歌。


 それらをぼんやりと聞きながら、テレビのニュースを見ているのだけど。

 ちっとも頭に入って来ない。


 さっきのキスの感触で、唇が、溶けたように熱くて。

 指でなぞりながら、ドキドキ。


「し、してないしてないっ。私、ドキドキなんてしてないってばぁ!?」


 でも唇は正直だ。

 もっと欲しい。もっとしたいと、なまめかしく疼いて、由理は戸惑う。

 百合キスは何度もしてきたけど、こんなに鮮烈なのは初めてかも。


「熱でもあるの、私? これじゃまるで、ホントに女同士で、最後までしたいみたいで……」


 胸に手を当てれば、カラダが燃えているのを自覚して……。


「おっまたせ♪ 美緒奈様の愛情手料理、完成だぜっ」

「にぎゃぁぁぁぁ!? か、考えてない! 変なコトなんて考えてないからぁっ!?」


 由理はソファーから飛び上った。


「って、早すぎない? ほんとに3分ぐらいなんだけど……」

「ふふん、美緒奈様の得意料理は、スピードがウリだかんな。でも、愛情はこもってるぜ♪」


 胸を張って、ツインテールをぴょこんと揺らして。

 美緒奈がテーブルに置いた、その料理は。


「鶏ガラの旨みたっぷり、日〇チ〇ンラーメン! どうぞ召し上がれ♪」

「わぁい、すぐ美味しい、すごく美味しい♪ ……ってこらぁぁぁ!?」


 どんぶり一杯、とってもシンプル。

 素のままのチ〇ンラーメンでした。


「これが手料理とか! 小学生でも作れるわ!」


 生卵も乗ってない。手料理と言い張るなら、せめてアレンジぐらいしてほしいと思う由理。


「なっ、あ、あたしに卵割れっての!? そんなレベル高い料理、出来ねーから!?」

「レベル低っ! レベル低っー!?」


 お湯を注いで3分待てば完成♪のインスタント麺を、由理は箸でつまみ、美緒奈を睨んだ。


「残念過ぎるわー。これのどこに愛情をこめる余地が有るわけ?」

「由理てめー、チ〇ンラーメンをディスってんじゃねーぞ!? 50年を超える歴史の、即席麺の元祖。日本が世界に誇る大発明なんだかんなっ!」

「残念なのはチ〇ンラーメンじゃなくて、あんたの腕だよ!?」


 卵も割れないらしい美緒奈様に呆れつつ。

 テーブルで向かい合い、2人でラーメンを食す。


「……いや、まぁ美味しいけどさ」

「てひ、愛を込めたからな♪ お湯を注ぎながら」


 なぜか自慢げな美緒奈の笑顔に、彼女の将来が本気で心配になる由理。


「あんたさ、料理とかしたことないの?」

「おうっ、自慢じゃねーけど林檎とかジャガイモの皮剥いたこともねーぜ!」


 うん、それは自慢じゃないね。

 じー、と呆れ顔で視線を注いでやると、美緒奈は、


「な、なんだよその眼は! いーのっ、あたしは料理上手な可愛いお嫁さんに、養ってもらうんだからぁっ!?」

「……もう、仕方ないなー」


 盛大にため息をつき、立ち上がる由理。

 美緒奈が頬を染めて、過剰反応。


「え、し、仕方ないって……由理が養ってくれんの?」

「違っ!? そうじゃなくて!」


 美緒奈の小さな手を引き、立たせて。

 キッチンへと引っ張っていく。


「私も料理、得意ってほどじゃないけどさ。ほら、野菜の切り方くらい教えてあげるから」

「う、うん……」


 その握る手に。

 美緒奈は赤くなって、ぎゅっと力を込めてくるのだった。

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