リズ来日編⑩ 百合色の追憶 後編

 季節は移ろい、卒業式シーズン。

 桜舞う丘の女子校の学び舎で、卒業式を終えた高等部3年生の乙女達は、めいめいに別れを惜しんでいた。

 そして、木造校舎の音楽室にも。

 別々の進路を選んだ乙女が2人。

 金の髪の巨乳女神ノラ=ノースフィールド……お若い時のリズ母と、セミロングの少女、結城ゆうき薫子かおるこ

 百合メイド喫茶「リトル・ガーデン」のバイト仲間である2人の思い出作りは、もちろん……。


「んむっ、じゅるぅ……。ノラ、息、苦しいってばぁ……。んぷぅ!」

「くちゅ、ぐぷ……ずるる、むぅ。はむ、んんっ……♪ だ、だってぇ……」


 百合キス。砂糖菓子みたいに甘い、メルティKiss。

 優しい春の光に包まれながら、静かな音楽室で2人きり。白い指を絡ませ合って、泣きそうな瞳で唇を求め合う。


「私、一度イギリスに帰る約束だし。薫子、私のこと忘れないでね? ……んっ、ちゅぅぅ」


 匂いを、体温を相手へ擦り込むように、制服に包まれたカラダをくっつけて。

 離れがたく抱き締め合って、伸ばした舌で愛し合う。


「くふ……んむぅ。ばか、大学の夏休みにはイギリス行くって……ちゅぱぁ♪ 言ったじゃない」


 ノラの胸を優しく愛撫してあげながら……ここが感じるのを、薫子はよく知っている……唾液をすすった。

 唇の間に架かる、甘く清らかな絆の証……エロティックで、でも清純な、銀の糸。


「すぐ会えるから。会いに行くから、だから泣かないで。ね?」

「ん……約束よ。薫子、大好き」


 百合キス。愛の証の、神聖百合接吻。

 ちゅぷぅ、ちゅぱぁっ……と卑猥な水音が立っているのに、あまりにも、あまりにも清らかな輝きに祝福されているのはなぜ?

 ピンクの花弁舞う学園に、そしてこの宇宙に、2人の唇以外は存在しなくなったように、夢中でキスし合う乙女達。

 ぴちゅ、ぴちゃんと響く咀嚼そしゃく音が激しさを増し、荒い息遣いが混ざると……いつの間にか、2人は制服の胸をはだけ、指を、恋人の内腿の間へ……。


「ノラお姉さま、イギリスへお帰りになるってほんとうですか!?」


 バターンと扉が開いた! 泣きそうな顔の黒髪の幼女、初等部2年の後條ごじょう香織子かおるこが高等部校舎の音楽室へ現れたのだ!!


「しょ、小学生は見ちゃダメぇぇぇぇぇっ!?」


 ※ ※ ※


「え、香織子ちゃんも思い出が欲しい?」


 慌てて制服を直しながら、高等部の薫子、同じ名前の読みの小学生へ聞き返す。


「はい、お2人ともご卒業ですし……ノラお姉さまは帰ってしまわれるのですよね。だから、その、香織子も……」


 もじもじ羞じらう、初等部2年生(年齢1桁)の香織子。


「お姉さまたちを、忘れたくないんです。リボンとか、制服のボタンとか……頂けたらなって」

「あ、そっか、そうだよね! そういうのだよね!?」


 音楽室に漂う甘い汗の残り香をぱたぱた腕で払いのけ、薫子安心。


「よかったぁ……。小学生が私達みたいなコトするとか言い出したら、どうしようかと思ったわ」


 ふぅ、と額の汗を拭う薫子。その横で、豊満な乳をやっとの思いで制服の中にしまったノラが、考え込む。


「けどやっぱり、一番思い出に残るって言ったら……ねえ?」


 ゆるふわ金髪巨乳女子高生ノラ、自分達を慕う小学生の妹分に、最高の思い出を残す為、一生懸命考えます。

 善意。あくまで善意で。薫子が止める間もなく、唇を近付けて……。


「ふふ、じゃあ香織子ちゃん? これがお姉さまが貴女に贈れる……最高のプレゼント♪」

「ちょ、ノラぁ! あんた小学生に……!?」


《お知らせ》


 ピーンポーンパーンポーン。この後は、小学生相手ではイケないシーンが流れます。

 自主規制として、かわりに同じ行為を、高校生なので問題無い由理ゆーり美緒奈みおなで再現してもらいます。


「み、美緒奈っ……。んくぅ、舌、甘噛みするの、だめぇ……。にゅくぅ♪」

「かぷ、じゅばぁ……♪ ふ、ふん! 昨日、リズ姉とはしてたじゃんさ。美緒奈様とは嫌だってわけ? ちゅぷ、ぐにゅりゅ……ちゅぱぁ♪」

「ば、ばか、そんなこと言ってな、あ、ああ……♪ 指、変なとこにぃ……♪」

「へへー、美緒奈様がロリ可愛いからってなめんなよ? オトナのテクを見せてやるぜ♪ ちゅぅっ……♪」

「あ、はぁ……♪ んっ、んんんあっ♪ 美緒奈のバカぁ、こ、こんなはげしぃキス♪ ふ、ふぁぁぁ!?」


《代打終了》


 零れた唾液で濡れる、音楽室の床。

 しばし沈黙が流れた後……小学生の香織子は。


「これが、オトナの世界……ふ、フケツですぅぅぅぅぅ!?」


 小学生には、刺激が強過ぎた模様。

 うわーんと泣きながら、逃げていった。


「待って香織子ちゃん!? 唾液は……唾液は清潔なのよ!?」


 硬直するノラへ、薫子怒った。


「小学生になにトラウマ作ってんのよ、あんたはぁぁ!?」

「oh……わ、ワタシ、外人ナノデ日本語ワカリマセーン……」


 ノラは冷汗を流しながら、てへぺろ。


「ごまかすなっ!?」


 後の寮母、後條香織子。

 20年以上前の、ある春の日の。今でも夢でうなされる、忘れられない思い出である。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る